CIAなどは、独自の人事システムを持つ
省庁として独自の人事システムを持つ代表例は、国防総省、国務省、国家安全保障会議(NSC)、国土安全保障省、中央情報局(CIA)などである。連邦政府の人事制度の分権化が進んでおり、勤務の特殊性、機密事項の扱い、危険な業務などにより、一般的な公務員に適用される伝統的なメリット・システムの対象外とされる。
特に、国防総省、国務省は、労働流動性の高い米国においても、若い優位な人材をリクルートして、内部育成し、幹部を育てている。国務省の大使職について、23年2月14日現在、193の大使級ポストのうち、国務省の職業外交官出身が100、政治任命などそれ以外が64、空席が29である(本間圭一著『アメリカ国務省』参照)。政治任命による大使の場合、専門的訓練を受けていない場合が多く、上院の指名公聴会で能力や適性が試されることとなる。政治任命された大使の長所として、有事の際、大統領に直接連絡することが容易であるという指摘もある。
大統領の側近、ホワイトハウス事務局はどう決まる?
前ページ図の右側は、ホワイトハウス事務局で勤務する人たちである。大統領補佐官など、ホワイトハウスで勤務する政府高官は、前出のペンドルトン法とは別の人事管理が認められている。
建国当初、連邦政府の役割が小さく、大統領のスタッフも限られていた。米国の発展とともに行政組織も着実に発展し、特にルーズベルト大統領は、大恐慌から脱するために、ニューディール改革を進めた。この間、行政組織が拡大した。これを管理するために大統領は行政組織の再編成権を獲得し、上院の承認を必要としないホワイトハウスの上級スタッフを拡充した。
法律では、大統領は、(1)幹部公務員給与表レベルⅡ(各省副長官に適用、24年1月時点で22万1900ドル)を超えない給与で25人を、(2)レベルⅢ(各省次官に適用、20万4000ドル)を超えない給与で25人、(3)一般給与表GS-18(法律の規定はこうなっているが、その後、GS-16~18の層がSESに包含・拡張され、SESの給与上限は20万4000ドル)を超えない給与で50人を雇用することができることなどが決められている。
実際には、議会に認められた一定の予算内で、各スタッフの給与は配分されている。2024 Annual Report to Congress on White House Staffでは、564人の氏名、官職、給与額がリストアップされている。バイデン大統領時代、大統領補佐官の給与は18万ドルと16万8000ドルの2種類があることが分かる。
大統領の給与は法律で40万ドルと諸経費が認められている(データは古いが、大統領給与、ホワイトハウス・スタッフについて、詳しくは「季刊行政管理研究」97所収の吉牟田剛「ブッシュ政権下の米連邦政府マネジメント(改革)に関する動向」〈02年3月〉参照)。なお、ホワイトハウスや大統領に関係する仕事の価値、名誉については処遇以上のものがある。レーガン政権、ブッシュ政権で10年間、ホワイトハウス報道官を務めたマーリン・フィッツォーター氏は、ジョンソン大統領が議会に設置したアパラチアン地域委員会で政府の仕事を始めたとき、公務員階級の中で最下層の年収であったが、大統領のために働いていると感じていたと述べている。ホワイトハウスの料理人の選定に当たっては、大統領やファーストレディーのお気に入りのシェフを招聘することが多いが、クリントン大統領がホワイトハウスの総料理長を公募したとき、国内外の米国籍保持者4000人から応募があったという。
大統領府は、首席大統領補佐官を長とし、大統領を日常的に補佐するスタッフ部門であるホワイトハウス事務局(White House Office)と、国家安全保障会議(NSC)、行政管理予算局、大統領経済諮問委員会、通商代表部などから構成される。
このうち、大統領の政治的判断、広報対応、スケジュール管理などを補佐するホワイトハウス事務局が特に重要とされる。実際のところ、トランプ大統領が執務する西棟1階には、10人余りの高官の執務室があり、CNNなどの報道によると(25年4月)、バンス副大統領、スーザン・ワイルズ首席大統領補佐官、彼女をサポートする副首席大統領補佐官(4人)、ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官(その後、国連大使に指名)、彼をサポートする副大統領補佐官、広報部長、大統領報道官などの部屋がある。
なお、イーロン・マスク氏の部屋は2階にあった(同氏は5月30日、「特別政府職員(Special Government Employee)」の任期切れとなり、政権を離脱する会見を行った)。国家安全保障会議、行政管理予算局、通商代表部などは、ホワイトハウス近隣のビルに入居している。