高島氏が10年以上前に語っていた
「創業の思い」

 実は、ここに至るまでには変遷がある。創業時、最も大切にしたのが「安心」だった。高島氏は、2014年、筆者が10年以上主催しているCSVフォーラムの初年度に登壇、創業の思いを次のように語っていた。

※注:CSVは「Creating Shared Value/共有価値の創造」の略語

「衣食住は生活の原点です。安心できない服や安心できない住まいなど、売り物にならないはず。それなのに、食については、つい『本当に安心か』が気になってしまう。それはとても不幸なことです。私たちは、自分の子どもに食べさせることができる食材の安定供給を、何よりも大切にしています」

 6つの約束で言えば、5つ目の「信頼(Credible)」にあたる。これこそが同社の創業の精神であり、いまなお同社が最も大切にしている約束だ。

 次に、顧客の困りごととして同社が注目したのが、買い物、さらには料理の手間である。忙しい毎日の中、「ひと手間」をかけるだけでおいしい食事を家庭で楽しむことができれば、という顧客の願いに寄り添いたい。そのためには、ストレスを感じない、気が利いた商品・サービスを提供する必要がある。これが「簡単(Easy)」に込められた思いだ。特にコロナ禍で「おうち時間」が増えると、3食の準備は大変。そんな中で、同社のミールキット「Kit Oisix」は大人気となった。

 そして、同社がいま最も注力しているのが、社会課題の解決だ。これまでも安心で便利な食生活の提供を通じて、食への不安の解消、女性の社会進出の支援など、社会課題を解決してきた。最近では「Upcycle by Oisix」を通じた食品ロスの逓減、サステナブル容器の使用、プラントベースミート(植物由来の食肉)の提供にも、より積極的に取り組んでいる。

 さらに、2016年には、社会事業の一環として、買い物難民を救済することを目的とした移動スーパー「とくし丸」を、グループ傘下に収めている。これらは、6番目の「社会との関わり(Social)」という約束にあたる。

 6つの約束のうち最初の3つは、食品会社であればどこでも必ず目指すものだ。「おいしさ」「楽しさ」「健康」は、筆者が「規定演技」と呼ぶ必須領域である。一方、「簡単」「信頼」「社会との関わり」の3つは、筆者が「自由演技」と呼ぶ独自領域である。規定演技を高いレベルでこなしたうえで、自由演技にもこだわり続ける。これこそ、オイシックス・ラ・大地の卓越したところである。