そもそもパーク内では非日常の世界観を守るため、迷子捜しの放送が行なわれない。それゆえ迷子対応はなかなか厄介なのである。

 またキャストにとっても迷子対応には責任がともなうのに加え、手間と時間を要するので、本音を話せば自分ではやりたくない。

 あるとき、「ピーターパン空の旅」のそばで掃除をしていたところ、ゲストから「迷子らしい子どもがいるんですけど」と呼びかけられた。

 ゲストに連れられていくと、たしかに3歳くらいの女の子が泣きじゃくっている。周囲に親らしい人もいない。

「どうしたの? 大丈夫?」

 そう話しかけてみても、泣きじゃくるばかりで何も答えない。この年で見知らぬ地で親と離れた怖さを思えば無理もない。

「心配しないでいいからね。すぐに一緒に来た人*を見つけてあげるからね」と言い聞かせながら、マニュアルにそって周囲に保護者がいないかどうかを捜す。どうやらそれらしき大人は見当たらない。

 迷子も千差万別で、幼くても本当に迷子かと疑うほどケロッとしていたり、ニコニコしていたりする子もいる。今回は大声で泣き続けて話もできない。

 続いて迷子センターに連絡をして、特徴を伝える。

「3歳くらいの女の子です。髪の毛は肩までの長さで、上着は赤のトレーナー……」

 すると、すでに迷子センター宛に親から連絡が届いていたようで、背格好や服装などの特徴が一致した。

 まだ泣き叫び続ける女の子と手をつないで迷子センターに向かう。

「大丈夫だよ。お母さんが待っているよ。おじさんと一緒に行こう」となだめながら歩く。

 この子が大きくなったとき、迷子になったのを助けてくれたひとりのおじさんがヒーローに……見えないだろうなあ、きっと。少なくとも、この子のディズニーランドでの思い出が、迷子の恐怖とか不安に染まらないといいけれど。

 迷子センターに到着すると、すでに先に着いていた両親が駆け寄ってきた。

「早紀ちゃ〜ん。よかった〜」

 母親が抱きしめると、女の子は安心したのか、よりいっそう大きな声で泣いた。