「地震後、自宅に戻った人」が
4割強もいた

 震災翌年に内閣府がまとめた、住民1万人以上に対するアンケート調査結果でも、「地震後、職場から自宅に戻った人」が4割強もいたことが分かっている。※「東日本大震災時の地震・津波避難に関する住民アンケート調査」平成24年12月内閣府(防災担当)

 私が現地で聞いた話でも、高台に一度逃げたが、津波の気配がないので低い場所に下りてしまったという人、津波を撮ろうと一瞬だけ高台から下りたら、あっという間に津波に襲われた人など、枚挙にいとまがない。

 高橋さんは、心境の変化をこう語ってくれた。

「母の死は、今も忘れられません。でも、もしも私たちの体験が誰かの命を救えるなら、それだけでも、生きた意味があると思えるようになりました。“津波てんでんこ”は、他人の命を見捨てろという冷たい言葉じゃない。先人たちからの、命をつなぐための温かいメッセージなんです」

 被災された方たちの生の体験談に耳を傾け、教訓として学びつづけることはとても大切だと思う。近い将来、必ず、“その日”はやってくるのだから。

<生き延びるための行動>
■「津波てんでんこ」は、命を守る行動哲学
 他人や家族に構わず“まず自分が生き延びる”ことが、結果としてもっとも多くの命を救う。
「一緒に逃げる」よりも「先に逃げる」こと

■“戻る”な、決して。命より大事なものはない。
 通帳、位牌、写真…「大切なもの」でも、命より大切なものはない。
 逃げた後に取りに戻らない、それが唯一の安全策。

■高齢者や家族と、事前に話し合っておく。
 いざ、その時に、いきなり“てんでんこ”を決断することは簡単ではない可能性がある。
 感情に流されずに、事前に話をしておくと安心。共倒れを避け、みんなが助かる行動をとるためだ。

※個人情報への配慮から、一部内容を改変しています。