そのわずか前に投稿された「目標が低すぎないか?」という問いは、孫氏が自分自身に向けた最終確認だったといえる。なお、孫氏は投稿の翌日に「ちなみに、これは私自身に対する問いかけです。私の価値観を人に押し付けるつもりはありません」とも発信している。

 掲げた壮大なビジョンに、本当に自分は覚悟を決めているのか。それをあらためて問う、ある種の「けじめ」だったのだろう。

 孫氏の問いは、単なる気合いや自己啓発ではない。情報革命を通じて世界中の人々を幸せにしたいという、孫氏自身が人生を懸けて追い求めてきた大きな目標に対して、自分がどれほど本気で向き合っているかを、最後に確認するための問いだったのである。

ソクラテスもジョブズも…共通している思考とは

 孫氏の問いは、歴史をさかのぼれば、人類の知の巨人とされる思想家たちの哲学と深く共鳴する。

 古代ギリシアの哲学者・ソクラテスは「吟味なき人生は生きるに値しない」といった。自分の知識や信念、行動を絶えず吟味し、自己を問い続けることこそが、人間が人間として生きるということの本質だと説いた。

 孫氏が投げかけた問いは、ソクラテスの哲学を現代のビジネスパーソンに向けて再構築したものであり、汝の仕事と人生を徹底的に吟味せよ、という厳しい要求を突きつけている。

 アップル創業者のスティーブ・ジョブズもまた、「今日が人生最後の日だとしたら、今日やることは本当にやりたいことだろうか」と自らに問い続けた。

 答えがノーであれば、何かを変えるべき時だと判断した。ジョブズは、行動と内省を不可分なものとして捉え、自分自身への問いかけを経営と人生の中核に据えた稀代の実業家であった。

 これら偉人たちに共通しているのは、「思考を停止させることこそが、人間にとって最大の敵である」という確固たる信念である。信念を支える原動力こそが、自分自身への絶え間ない問いかけなのである。