「この人とやったら不幸でもえい」――今田美桜の“のぶ”だから映える「ためらい」のリアリティ【あんぱん第74回レビュー】

健太郎が鋭い指摘
嵩は「独楽のようだ」

 メイコは思い余って闇市へ健太郎に会いに行く。そこでのぶから聞いた「この人とやったら不幸になってもえい」という話をする。健太郎はそれでは嵩の恋は絶望的だとため息。そういえば、健太郎とのぶはふたりの仲を取り持とうとしていたことがあった。

 健太郎自身は、戦争から生き延びたからどうせなら幸せにならないと意味はないと思っている。メイコとしては、これはイケると思うが、健太郎は相変わらず鈍く、メイコが訪ねてきたのは「のど自慢」をラジオで聞きに来たのだろうと勘違いする。

 たぶん、のぶの家(若松家)にもラジオはあると思うが。

 のぶの東京行きが近づいてきた。岩清水(倉悠貴)は代議士・薪鉄子(戸田恵子)という「ガード下の女王」を取材したいと提案。この女性はガード下の浮浪児に毛布をかけてあげたりしている。そういうことができていない(やっているかもしれないが描かれていない)のぶは薪に興味を持つ。

 ガード下とは東京の有楽町の高架下。その界隈に詳しい嵩(第73回で学生時代は毎日行っていたと言っていたのが驚き)は、東海林(津田健次郎)に言われ次号の表紙に「東京のキラキラ美女」を描くことになった。そういえば、嵩が卒制で描いたあの絵、どうしたでしょうね。

 東京行きを前に、嵩と健太郎が居酒屋で飲みながら話す。健太郎は古道具屋を辞めるという。そう、嵩が就職したあと、彼はひとりでお店をやっていたのだ。いや、ひとりではない。コン太と一緒だ。社場代を請求されたりするし、いろいろ大変なのだろう。

 のぶといっしょに働けて、東京にいけるのだから、生きていてよかっただろうと言う健太郎。たぶん、彼はのぶと嵩をまだ応援しようとしている。ところが、嵩はのぶが近くにいればいるほど遠くに感じると言う。

 のぶは夫を亡くしたばかりなのに弱音を吐かずに必死で前に進もうとしている。そんな人を「俺みたいな人が好きになっちゃいけないんだよ」と自虐する嵩を健太郎は「独楽のようだ」と皮肉る。ぐるぐると同じところを回っている。ほんとうは自分が傷つきたくないからだろうという鋭い指摘。

 独楽とは「独りが楽しかと書いて独楽」とはそうかそういう意味か。名づけの面白さを感じた瞬間だった。