小学校受験ブームの裏に
3つの社会の変化

 小学校受験人気の背景には、大きく分けて3つの社会的変化があると考えています。

 1つ目は核家族化の進行と人間関係の希薄化です。

 かつての日本社会では、親戚や近所付き合いの中で、子どもたちは様々な人間関係を自然と築くことができました。しかし現代では、そうした関係性が失われつつあります。

 兄弟姉妹の数が減り、核家族化が進み、近所付き合いも最小限になっています。「小さい頃から共に歩む他人が少ない」という現実があるのです。こうした状況の中、成蹊小学校や成城学園初等学校といった私立小学校は、高校までの12年間や大学までの16年間という長い時間を共に過ごす密なコミュニティを提供してくれます。

 デジタル社会が進む中だからこそ、学歴や偏差値とは違う「人間関係の価値」を持つコミュニティの存在が重要視されているのです。

 2つ目は、「二世受験」の増加です。自分自身が私立小学校出身で「楽しかった」「小学校から私立に通っていて良かった」という経験を持つ保護者が、自分の子どもにも同様の経験をさせたいと考えるケースが明らかに増えています。

 必ずしも自分と同じ学校ではなくても、私立小学校という環境で育った経験を持つ親は、その価値を信じ、子どもにも同じ選択をさせる傾向が強いのです。30年前と比べても、私立小学校を卒業した世代が親になる時代となり、受験層の厚みが増しています。

 3つ目は、中学受験の回避です。小学校6年生が経験する中学受験に比べて、5歳という反抗期ではない時期の小学校受験は、保護者がコントロールしやすいという点が挙げられます。

 小学校受験を選ぶ家庭も多くは、東京都港区や中央区、品川区、世田谷区、杉並区、武蔵野市、など、比較的教育水準が高いと言われる地域に住んでおり、こうしたエリアでは公立小学校の評価も決して低くありません。

 地元の公立小学校でも十分な教育が受けられますし、塾環境も充実しているので、公立小学校からでも難関中学に合格することは可能ですが、将来の中学受験における「偏差値競争」や「周囲との比較」から子どもを守りたいという思いもあるのでしょう。

 私立小学校は、中学受験とは全く異なる環境を提供します。私立小学校は公立小学校よりも、その学校特有の価値観や、教育方針などを明確に掲げています。いわばわかりやすく「ラベル」が貼ってあるようなものです。このため、小学校受験が一部の保護者に好まれる理由として、子を通わせる前から、学校でどのような教育が行われるのかを想像しやすいと言えます。

 中学受験のように偏差値別のランキングなどがあるわけではないため、価値観の対立が生じにくく、互いを否定するような競争原理も働きません。