社会保険料滞納がトドメで
ついに3度目の倒産
残った2社目の聘珍樓は、横濱本店を運営するもう1社が破産した際、「当社とは関係がない」と無関係を強調するコメントを出した。だが、当然、取引関係者の理解を得られるものではなかった。
特別清算や不採算事業を切り離す外科的処置がむしろ聘珍樓の信用を低下させた可能性はある。特に、当時はコロナ禍の影響が尾を引き、正確な情報をつかめず不安感だけが高まっていた。
ただ、1社目の聘珍樓の時代、中小企業再生支援協議会(現:中小企業活性化協議会)と連携して実施した賃料の減額や値上げの効果で、採算が見込める事業を引き継いだ2社目の聘珍樓は黒字を計上するまで改善した。ところが、コロナ禍では時短営業や休業で売り上げが大幅に落ち込み、赤字に転落した。このため、コロナ関連融資や雇用調整助成金、時短協力金、公租公課の支払い猶予など、コロナ関連支援策で資金繰りをつないだ。
2022年3月、コロナ禍の「まん延防止等重点措置」が全面解除された。離れていた客足が徐々に戻り、売り上げは回復に向かったが、百貨店向けの食品販売事業などは不振が続いた。役員報酬カットや関連会社の事業縮小など、出来る限りのリストラ策を実行したが、コスト高、物価上昇による消費減退、コロナ融資の返済など、新たな課題が一気に押し寄せ、資金繰り悪化に歯止めがかからなかった。そこに社会保険料滞納による年金事務所の差し押さえが発生、これが引き金となって5月21日に破産を申請した。
会社は破産しても残る
「聘珍樓」というブランド
3度目の倒産で、ついに聘珍樓の歴史に幕が下りたと考える人も多い。だが、法人としての聘珍樓はなくなっても、実はブランドは消滅していない。「聘珍樓」に関する商標権は現在、外国法人が所有・管理している。聘珍樓の倒産手続きを担当した関係者は、「倒産した会社以外の別法人が権利を持つ『聘珍樓』の商標権に価値はある」と話す。
5月に破産した時は、予約客が1000組ほどあったという。会社としての信用は棄損しても、聘珍樓に魅せられ、味や雰囲気を忘れられない顧客は多い。
3度の倒産を経てもなお、そのブランドの行方が注目を集めていることこそ、その価値の高さを物語る。聘珍樓に詳しい関係者は、「経営者一族以外で、味や雰囲気の再現は難しい。ただ、商標権や一族が持つノウハウ、人脈を活用できれば、聘珍樓は復活できるかも知れない」と幕が下りていないことを熱く語った。
かつて横浜中華街の「顔」としてならした聘珍樓。その復活の狼煙(のろし)はいずれ上がるのか。にぎやかさを取り戻して観光客に沸く横浜中華街の名門は、ブランドとノウハウを生かして、そのタイミングを虎視眈々(こしたんたん)とうかがっているのかも知れない。