
のぶの“東京への憧れ”について
考察したい
どうしたい?と聞かれて、即、新聞社を辞めないと答えるのぶ。そりゃそうだろう。まだ数カ月だし、薪のこともそんなに知らない。ましてや、高知から東京。
でも、東海林は、ん〜と考えこむ。
居酒屋で、東海林、嵩、岩清水、琴子(鳴海唯)がのぶのいないところで勝手に彼女の進路を考える会。
このとき、深刻な東海林、嵩に対して、端でもぐもぐとのんきに咀嚼している岩清水の表情がいい。また、琴子のセリフの言い方の絶妙なリズム感。ちょっと漫画っぽく演じると伝わりやすい脚本なのだ。
東海林は東京で働くことがのぶのためなのではないかと考えている。新聞社はジャーナリズムといってもやっぱりいろんなしがらみがあって、理想論では歯が立たないところがある。書きたいことが書けないこともあるだろう。のぶのやりたい弱者の声を聞き、社会を変えていく活動は、薪の下で働くほうが可能性が高いと感じたのではないか。
のぶは帰宅して、メイコ(原菜乃華)に引き抜きの話が来たと話す。
「おねえちゃんはちんまいときから東京行きたい言いよったよ」「ほんまは行きたいがやろ」とメイコは勧めるが、のぶは煮えきらない。薪と仕事をすることには心惹かれる。でも高知新報に恩返ししたいし、朝田家のこともあるし……。
メイコは「戦争がなかったら」と想像を巡らす。みんな幸せに楽しく暮らしていただろう。
メイコは青春時代、防空壕ばかり作っていた。それが悔しい。
「うちらの夢を取り返すがやき」とのぶは自分もメイコも励ますように言う。
いまは戦時中に抑圧され、奪われた夢を取り返す時代なのだ。
そんな彼女たちの気持ちを、朝ドラ国防婦人会のごとくあれこれ取締るのも無粋だが、のぶが東京に行きたかった話が事実から肥大化していることを、視聴者は全員認識すべきである。
この連載レビューでもすでに指摘しているが、第74話で、幼いのぶが「四国の山越えて海越えてずっとずっと遠くの銀座という町に行って……」と父(加瀬亮)に瞳をキラキラさせて言っているのを妹たちが背後で見ている場面の回想があった。
第75話では「山越えて海を越えて銀座に行ってみたい」とのぶが言っていたと蘭子(河合優実)が思い出している。この思い出により、子どものときからのぶが東京に行きたいと思っていて、ようやくその夢が叶うというストーリーラインになっている。
ところが、このセリフがあった第2話では、「四国の山越えて海越えてずっとずっと遠くの銀座という町に行って……」のあと、「パン屋さんでほっぺが落っこちそうなパンを買うておなかいっぱいたべるがやき」と言っているのだ。