テキサス州オースティン在住のポール・ボナノスさん(45歳)はこの春、泣く泣く2つの“買い物”を諦めた。

 ひとつは、街角で目にして以来夢に見るほど欲しかったトヨタ自動車のピックアップトラック「タンドラ」。もうひとつは、子供にねだられ、自分でもすっかり買う気になっていたソニーの薄型テレビ「ブラビア」だ。

 決して失業したり、減収に見舞われたわけではない。地元の中堅カーディーラーで部長を務める彼の年収は日本円にしてざっと850万円。専業主婦の妻と高校生の娘、そして小学生の息子を養うには十分な額だ。

 しかし、ボナノスさんが心配しているのはじつは“今”というより、“今後”のことである。なにしろ世間から聞こえてくるのは、失業率アップや消費低迷といった暗いニュースばかり。勤務先も今年は非常に厳しい収益見通しを立てている。「いつなんどき大幅なサラリーカット、あるいはクビを切られるとも限らないと内心不安で仕方ない」のだ。

 実際、生活実感も徐々にだが、厳しくなりつつある。昨年夏にサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)の焦げ付き問題が深刻化して以降、変動金利型住宅ローンや自動車ローンの金利が上がったところにきて、特に今年に入り、食料品やガソリンといった生活必需品の価格上昇に拍車がかかってきたからだ。

 「このままだと、我が家の収支は赤字ね….」。

先日妻が嘆息交じりに漏らした言葉が耳にこびりついて離れない。家計支出に占める食料品とガソリンへの支出の割合は「感覚的に5割を超えた」。贅沢は敵とばかりに、妻は、下の子の長ズボンをハサミで裁断して半ズボンにした。その姿にショックを受けたボナノスさんは、毎年恒例のマイアミへの家族旅行も今年は見送るつもりだ。

所得税減税効果も吹き飛ばす
食料・ガソリン価格の急上昇

 米大手民間調査機関のコンファレンスボードによると、消費者心理を示す消費者信頼感指数は5月、前月より5.6ポイント低い57.2となり、16年ぶりの低水準に落ち込んだ。ミシガン大学による消費者信頼感指数に至っては、28年ぶりの低水準という厳しい結果だった。