ANA JAL危機 過去最高業績の裏側#1Photo:PIXTA

インバウンド需要の急増で国際線が活況を呈し、ANAとJALの業績は過去最高水準に回復した。しかし、国内線が赤字基調に陥るなど事業環境は大きく様変わりしており、コロナ禍に掲げた中期経営計画の目標を本当に達成できているのかには疑問符が付く。特集『ANA JAL危機 過去最高業績の裏側』の#1では、両社の中計の目標達成度と事業構造の違いを分析。ANAとJAL、一体どちらが有言実行できているのかを明らかにする。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

国際線絶好調の裏側で国内線は不況
中計を有言実行しているのはどっちか

 航空業界2強のANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)の業績が好調に推移している。2025年3月期の売上高は、ANAが2兆2618億円で過去最高、JALは1兆8440億円で再上場後最高を更新した。訪日外国人旅行客(インバウンド)の急増で国際線の需要が急拡大し、同事業の収益性が大きく向上したことが要因だ。

 数年前を思い返せば、両社は現在とは真逆の立場に置かれていた。新型コロナウイルスの感染拡大で生じた世界的なロックダウンにより、21年3月期にはANAが4046億円、JALが2866億円の最終赤字を計上していた。

 コロナ禍からの回復、そしてコロナ前の成長曲線に戻るため、JALは21年に、ANAは23年に、26年3月期までの中期経営計画を発表。そこで目標利益として、ANAは営業利益2000億円、JALは財務・法人所得税前利益(EBIT)1850億円(24年に2000億円に上方修正)を掲げた。

 ところが、掲げた目標を阻むようにコロナ禍を経て航空業界の事業構造は大きく変化した。国際線はインバウンド需要で業績が急回復した一方で、国内線は利益率が低迷しているのだ。

「相対的高単価だった出張需要の極端な減少、世界的なインフレと円安によるコスト増加がここ2、3年で急に起きて国内線は実質赤字の状況になっている」

 全日本空輸ネットワーク部の渡辺知樹担当部長が深刻な様子でそう語るように、単価の低下とコスト増の板挟みにあった国内線事業は、かつての稼ぎ頭から一転。航空会社を悩みのタネになってしまったのだ。

 渡辺氏の指摘からも分かる通り、航空業界の事業環境は数年で激変したが、両社がコロナ禍の時に掲げた中計目標を達成できる見込みはあるのか。

 中計の目標利益と26年3月期の予想利益を比較すると、ANAとJALの達成状況は異なることが判明。1社は目標を達成する一方で、もう1社は目標未達となる見込みだ。

 ANAとJAL、果たして、どちらの会社が目標を完遂する見込みなのか。

 また、事業全体の利益目標を達成していたとしても、航空事業、マイル事業、旅行事業などの各セグメントで目標を達成できているのかは別問題だ。なぜなら、好調の国際線事業により航空事業が大きく利益貢献し、非航空事業では目標未達となっている可能性もあるからだ。そのため、セグメントごとに目標を達成できているのかどうかも子細に分析した。

 では、自分たちで立てた目標を“有言実行”できているのは、ANAとJALのどっちか。数字上は順調に見える両社だが、利益を生み出す仕組みは全く異なる。その詳細は次ページで解説する。