あれだけ言っても伝わっていなかった
Facebook:佐々木圭一
藤田 僕は、あの本を書いたことで、考えていたことがようやく理解してもらえた、という思いが自分の中ではあるんです。すごく近くにいた社員が、「そんなことは全然知りませんでした」と言っていたりして。僕としては、何度も繰り返し言っていたつもりだったんですが、なんだ伝わっていなかったんだ、と。
佐々木 社員の方に「どうしてAmebaの事業を拡大しようとしているか、わかりません」と言われたこともあったそうですね。
藤田 繰り返し、同じことを言っていたんですよ。ブレてはいけない、というのはしっかり学んでいたので、「メディアを育てないと、会社が大きくなれないんだ」と言っていたんですが、それを言っても理解されなかった。
ところが、うまくいって、本にこういうふうに書いたら、「なんだ、そういうことだったんですか」と言われて。僕の中ではけっこう衝撃的でした(笑)。
佐々木 あれだけ言っても伝わっていなかったのか、と。
藤田 「伝わっていない感」はずっと持ってはいたんですけどね。その意味でも、本を出して良かったです。
佐々木 どんなふうに伝わっていなかったんですか。
藤田 言っていても断片的に聞いている人とか、断片的に覚えている人とか、そういう人が多かったですね。全部まとめて聞く機会がなかなかなかったのかもしれない。
聞いた瞬間みんなが納得できる話は、わかりやすい話なんですよね。例えば、事業ではありきたりのものだったり、二番煎じのものだったり。何か新しいものを生み出していく、という話ではない。
すでに、「こういうふうにやるんだ」というものがあると、みんなの意思統一ができて「なるほど」ということになる。
日本の会社は、他の競合の成功例を見つけてきてそれを実践して追い抜くとか、アメリカで成功しているものを日本に持ってくるとか、そういうほうが、みんなすんなり受け入れるところがあるんだと思うんです。
でも、「新しく、こういうものをやるんだ」という起業家の頭の中だけにあるものは、言っても言っても、なかなか伝わらない。
佐々木 世の中にすでにあるものなら人は信頼するし、ましてや売れていたりするものであれば、認めやすいんでしょうね。でも、まったく見たことがないものは、なかなかわかってもらえない、ということですね。
藤田 スティーブ・ジョブズも似たようなことを言っていたんです。「目の前にデバイスを出されて初めて、人はそのプロダクトを理解するんだ」と。
佐々木 まさに、そうかもしれないですね。