一方、ユーダイモニックとは、表面的な快楽ではなく、持続的で、自分の存在意義や人生の目的に関わる、生きがいや深い充実をもたらす満足感、幸せを指します。人の役に立っている実感、仕事のやりがい、自己実現、社会貢献といったものが挙げられるでしょう。

 どちらも人間にとって大切ですが、就活やキャリア形成を考えるうえでは、この違いを意識することが重要です。

 特に若い世代、就活をする年代の人々は、前者のヘドニックな快楽を重視するものです。「給料が高い方がいい」「有名な会社がいい」「旅行や趣味に使える時間が多い方がいい」といった基準で職場を選びがちです。しかし短期的な快楽は長続きしません。

 それに対してユーダイモニックな幸福は、時間をかけて積み重ねることで深まります。誰かに感謝されたり、社会に役立っていると実感できたりした瞬間は、ささやかなものであっても、長期的には仕事を続ける原動力になります。

 両者のバランスを意識して楽しさや幸せを追求することが、キャリアを長く楽しむための基盤になると思いますね。

ユーダイモニックな視点を養うために
求められる3つの視点とは

――ユーダイモニックな視点はどうすれば養えるのでしょうか。

 ユーダイモニック――ウェルビーイングという言い方が一般的ですが――については、心理学、哲学、脳科学の分野で広範囲な研究が行われていますが、研究者の間では、次の3つの要素が共通の基盤となっています。

 第一は「自律性」です。これは必ずしも他人からの独立を意味するわけではなく、自己決定権を持っているかどうかということです。自分で物事を決められる、積極的に関与できること。他人に言われたからという受け身ではなく、主体的に仕事に取り組める状況をつくることが大切です。

 第二は「コンピテンス」、つまり有能性です。頭が良いとか能力が高いというより、「やれば自分はできる」という手応えや実感のことです。

 レベルの高低に関わらず、自分なりにその場で有効なことができている、この仕事は役に立っているという肯定的な自己認識を持てること。自分の長所も短所も含めて受け入れながら、それを次の成長につなげていく力とも言えるでしょう。

 第三は「関係性」です。孤立せず、他人や社会とつながっているという感覚です。友人や上司といった個人的な関係だけでなく、自分の仕事が社会や人々の役に立っていると思えるかどうか、という広い意味での関係性です。

 この3つだけでいいと考えればとてもシンプルで明快だと思いませんか。目の前のおいしいハンバーグや可愛い子猫が、なぜユーダイモニックではないかというと、この3つが欠けているからですよね。

*中編は12月17日公開です。お楽しみに!