多くの一流企業をクライアントに持ち、機能的で遊び心に満ちた製品を開発し続けている、デザイン・ファームIDEO『発想する会社!』(早川書房刊)では、そのイノベーションの技法が話題になりました。前回紹介した、スタンフォード大学d.schoolとも関係が深いIDEO。アメリカ西海岸のパロアルトの本社に伺い、革新的な働き方をテーマに、パートナーで『発想する会社!』の共著者でもあるトム・ケリー氏にお話を伺った。(撮影・編集部)

何時に出勤するとか
何を着ているかなんて誰もチェックしない

なぜあの会社には、<br />働き方のルールがないのか?<br />【企業インタビュー:IDEO編】IDEO パートナー トム・ケリー氏と筆者

トム 私の父親はタイヤメーカーに勤務していました。父たちの会社にとって敵は、同じエリアにある他のメーカーだった。だから、勝つことはそれほど難しいことではなかったんです。ところが今は、世界中の会社が競合になりうる。だから、最もクリエイティブな人が効果的に働く、という方法で戦っていかなければ絶対に勝てません。日本もそうだと思いますが、賃金で比べると、10分の1、100分の1で同じ仕事をする人たちがたくさんいるわけです。クリエイティブで戦わなければ、勝ち目はありません。

本田 ビジネスで勝つ方程式が大きく変わったということは、社員の働き方も変えていかなければいけないんですね?

トム何が目的なのか、ということについて意識的になっている、というのがこの10年の変化だと感じています。1990年代に新卒の学生に話を聞くと、彼らはお金にしか関心がなかった。どうやって会社を興し、売却して、どれだけ儲けるか、ばかりを考えていた。今もお金に関心がないとは言わないけれど、どうやって世界を変えられるのか、という、もっと大きな目的を持っている。もちろん私たちはクライアント企業が利益を上げるお手伝いを目的としますが、同時に何らかの世の中にインパクトを与えるものをデザインしないといけない。そういう使命感が強くなっている気がします。

本田 働き方のルールとかはないんですか?

トム 文字にされているルールというのはありません。何時に出勤するかとか、ちゃんとした洋服を着ているかとか、机に向かって熱心に仕事をしているかとか、そんなことをチェックする人はいないですね。クライアントを怒らせないとか、本当に基本的な、これだけはやってはいけない、ということを定めておいて、それ以外は自由にしていい、という考え方です。上司はクライアントであり、プロジェクトなんです。