エアライン・鉄道の進路Photo by Yuito Tanaka

中東情勢の悪化を受け、ジェット燃料価格が原油以上のペースで急騰し、航空業界の収益構造を揺るがしている。全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)は燃油サーチャージの大幅引き上げに踏み切るが、この正攻法の裏には、航空会社が恐れるシナリオが潜んでいる。果たして過去最高と言われた2008年の原油高危機を超える今回のジェット燃料の高騰は、どの程度の破壊力を持つのか。連載『エアライン・鉄道の進路』の本稿では、「積み上げた利益がわずか数カ月で吹っ飛びかねない」という衝撃の試算をもとに、航空業界が直面する赤字転落へのカウントダウンを読み解く。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

ジェット燃料爆騰で高止まり
燃油サーチャージ値上げで問題解決なるか

「過去に経験したことのない、業界を揺るがす大きな出来事だ。なんとかして生き抜いていかないといけないが、先が見えない不安が渦巻いている……」

 中堅エアラインの幹部が、こう嘆くのも無理はない。『【独自試算】ジェット燃料が爆騰、国内航空大手で“月間300億円”のコスト増も!「利益大幅減」「減便リスク」に業界震撼』で報じた通り、航空機用のジェット燃料価格が、原油価格の上昇率を大きく上回る形で急騰し、高止まりしているからだ(下図参照)。

 国際航空運送協会(IATA)のデータによれば、2026年2月14~20日の週平均価格が1バレル当たり95.95ドルだったジェット燃料は、現在184.63ドル。3月中旬から4月初旬にかけては、4週連続で200ドル前後という高水準で推移した。足元ではそのピークからやや下落しているものの、依然として高値圏にある。

 中でも、供給不安がささやかれるアジア・オセアニアはジェット燃料価格が最も高騰している地域であり、現在の全世界平均を約1割上回る207.5ドルに達している。

 こうした異常事態を受け、航空各社は対応を迫られている。全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)は、当初予定していた6月分から1カ月前倒しで5月発券分から国際線の燃油サーチャージを大幅に引き上げる方針を発表した。例えば欧州・北米路線では、ANAが最大5.9万円(4月発券分は3万1900円)、JALも最大5.9万円(同2万9000円)と、両社とも8割以上の値上げを断行する。

 一見すると、燃油サーチャージはコスト増を運賃に転嫁する妥当な解決策に見える。だが、事はそう単純ではない。燃油サーチャージという盾が、自らを傷つける刃にもなり得るからだ。

 歴史を振り返れば、「燃料サーチャージ」が新語・流行語大賞にノミネートされた08年、原油価格が史上最高値を更新した際、エアライン各社は今回と同様の危機に直面した。当時、日本の空では一体何が起きていたのか。

 実は、現在の燃料高騰ペースは、原油価格が史上最高値を更新し、JALが経営破綻へと向かった2008年当時よりも遥かに厳しい状況にある。

 次ページでは、ANA・JALを襲った08年の原油高ショックのデータを基に、「利益が半年で消失しかねない」という絶望的なコストシミュレーションを公開。さらに、すでに赤字転落を余儀なくされた海外大手の事例から、日本の空に迫る真のリスクを検証していく。