また、創薬現場ではAIやデジタル技術の活用も急速に進んでいる。AIが単独で新薬を生み出すわけではないが、候補化合物の探索やデータ解析、研究プロセスの効率化などに広く活用され、開発スピードの向上や研究の最適化に大きく貢献している。

 現在では、ほぼすべての大手製薬会社が何らかのかたちでAIを導入しており、「導入していること」自体は差別化要因ではなくなった。今後は、AIをいかに活用して研究開発の成果につなげるかが競争力を左右する。

「創薬×デジタル」
求められる融合人材

 製薬業界はもともと知識集約型産業であり、知的財産が企業価値の源泉である。そのため、創薬に必要な専門知識とデジタル技術の双方を理解する人材への需要が急速に高まっている。

 AIやデータサイエンスの活用が当たり前になった現在、創薬に関する専門知識だけでも、ITスキルだけでも十分とはいえない。

 製薬会社が求めているのは、創薬プロセスを理解しながらAIやデータ解析を活用できる高度人材であり、そのような人材は市場全体でも極めて限られている。そのため、多くの企業では採用だけでなく、社内育成も重要な経営課題となっている。

 採用手法にも変化が見られる。従来の日本企業は新卒一括採用を中心としてきたが、製薬業界では中途採用や経験者採用の重要性が一段と高まっている。

 背景には、新薬開発の難易度上昇に伴い、企業業績が主力製品のライフサイクルによって大きく左右されるようになったことがある。大型新薬のローンチや特許切れによって業績変動が大きくなる中、企業は固定的人員を抱えるよりも、必要なタイミングで必要な専門人材を確保する方向へシフトしている。

 こうした事情から、人材の流動性は他業界以上に高まっており、即戦力人材へのニーズも今後さらに強まるとみられる。

 人々の健康への需要がなくなることはないため、今後も製薬市場そのものは存続し続ける。しかし、新薬で十分な収益を得るハードルは高まり続ける可能性が高い。限られた企業だけが大型新薬を生み出し、高い収益を獲得する「ハイリスク・ハイリターン」の産業へと変化していく中で、企業競争力を支える最大の資産は、「創薬×デジタル」の融合人材になるといえそうだ。

(大和証券 シニアアナリスト 橋口和明氏への取材を基に編集チームが構成)

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