悪循環を断ち切るには
もっと広範囲なコラボレーションが必要

紺野登(こんの・のぼる)
多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。

紺野 ビッグイシューの例で言うと、人とお金を投入して雑誌を作り、販売はしているけれども、最終的な目的は雑誌を売って儲けることではなくて「ホームレスの自立」、さらにはホームレスの生まれないような社会を追究するところにある。けれど、ほとんどの出版社はこの「ホームレスの自立」にあたる目的が見えていなくて、雑誌を売って得られる利益だけを考えてビジネスを回そうとしている。

井上 そうなんです。これでは、21世紀にこれから必要な競争力がなかなか持てない。目的を固定したまま、今のままでできることは随分やってきてしまっていると思うんです。

 ビッグイシューの例で言いますと、やっていくうちに見えてきたジレンマもあります。今のプログラムだけだと、どうしても、路上から脱出していったん就職した人がまた戻って来てしまうんです。どうして続かないのかと言うと、一つには、「路上で雑誌を売る」からの経験やスキルで得られる仕事の幅に限度がある。

 もう一つ、すごく大きいのは、再就職して戻った世の中が前と同じままだと、やっぱり彼らの居場所がないってことなんです。型通りのビジネスパーソンでなければ生きていけない多様性のない社会だと、彼らがその中に戻っても、再び疎外感を抱いてしまう。そうなると、せっかく就職しても「路上で雑誌を売っている方がよかった」と続かない。彼らをとりまく世の中の構造が変わらないままなんです。

紺野 その悪循環を断つには、何が必要なのでしょうか?

井上 もっと広範囲なコラボレーションだと思います。直接ホームレスを支援している団体だけではなく、ほかのNPOや企業、それに政府の力も必要になってくる。社会的課題というのは単独で存在している訳ではなくて、経済やコミュニティ、メンタルも含めて様々な問題が複合的に絡んで存在しています。

 ですから、そうした問題にかかわる人たちがコラボレーションしながら、大きな社会的インパクトを目指して進まないと変わらない。最近、そうしたコラボレーションによって生まれるインパクトを「コレクティブ・インパクト」と称して研究する論文やプロジェクトも多く登場しています。

紺野 コラボレーションを成立させるには、おそらく、マッチングが重要になってくる。出会う機会をどう作るか、ですね。フューチャーセンターなんかも、そうした仕掛けの一つだと思います。