大目的の先に自分自身の本当のありようが見える
それを発見するための目的工学

紺野 その広範囲なコラボレーションを展開していく上でどうしても出て来るのが、リーダーシップの問題だろうと思います。大目的は非常に正しいけれども抽象的で、ゆえに、どの個人からも遠くなってしまう危険性がある。特に、先ほどのコレクティブ・インパクトを追い求めようとすると、そこかしこにリーダーが存在する訳だから、どうしても目的群の調整が必要になってきますよね。ここが、とても難しい。

井上 それと、大目的と個人との関係で言うと、今、とても深刻なのは「社会のため」と思って頑張りすぎてバーンアウト(燃え尽きる)する人たちがたくさん出て来てしまっていることです。「世のため人のため」と思ってやっていたら、いつの間にか、それが自分からかけ離れていってしまって、ディスコネクションが起きる。

紺野 利他主義が行き過ぎちゃうんだね。

井上 そう、それもあって、アメリカでは「マインドフルネス」(対談中編も参照)が注目され、企業も実践し、科学的にも研究しようとする動きが出て来ているんだと思います。マインドフルな状態となるには、体感がキーです。分析的でなく、今、心をここにおく。僕も、瞑想や座禅、マインドフルに歩くとか、田植えをするとかしています。羽黒山に山伏修行に行ったこともあります。

 起業家が多く集まるカリフォルニアには禅センターが多く、ヨガや瞑想する人も本当に多いですね。スタンフォード大学には、ダライラマの肝いりで始まった、瞑想などの効果を医学や心理学、それとビジネススクールの協力で科学的に研究・実践するセンターもある。

 マインドフルネス、急速に広まっていますね。最近では、グーグルが「サーチ・インサイド・ユアセルフ」という研修プログラムで効果をあげているのも、アメリカで非常に話題になっています。これが大人気で、社内で数百人待ち、一般にもノウハウを共有し始めています。

紺野 いいね、僕も体験してみたい。

 大目的が大事だとは言っても、ただがむしゃらに頑張ればいい、というものではない。理想は数値管理によって人が動かされるのではなくて、個人が高い目的に引っ張られるようにして自律的に動くこと。だから、目的工学というのはビジネスのための方法論でもあるのですが、もっと個人の存在そのものや働き方を問い直すための社会的方法論とも言える。

井上 人間の存在そのものを問い直すプロセス、その重要なファクターとして目的があるのだと思っています。だから、大目的を作るためというよりは、その向こう側にある自分たちの「あり方」をいま、もう一度見つめていくためのパーパス・エンジニアリングなんじゃないかなという理解を、僕はしているんですけれどもね。


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『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』

アインシュタインも語った――「手段はすべてそろっているが、目的は混乱している、というのが現代の特徴のようだ」
利益や売上げのことばかり考えているリーダー、自分の会社のことしか考えていないリーダーは、ブラック企業の経営者と変わらない。英『エコノミスト』誌では、2013年のビジネス・トレンド・ベスト10の一つに「利益から目的(“From Profit to Purpose”)の時代である」というメッセージを掲げている。会社の究極の目的とは何か?――本書では、この単純で深遠な問いを「目的工学」をキーワードに掘り下げる。

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紺野 登(Noboru Konno)
多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。

目的工学研究所(Purpose Engineering Laboratory)
経営やビジネスにおける「目的」の再発見、「目的に基づく経営」(management on purpose)、「目的(群)の経営」(management of purposes)について、オープンに考えるバーチャルな非営利研究機関。
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