日本最大級のコワーキングスペースを設立・運営する傍ら、年200回を超えるイベントで全国の起業家たちの背中を押す。そして数字よりも人物を見て現在までに60社に投資。うち複数がイグジットしただけでなく、未だに倒産はゼロ――。
その実績から2010年代の起業ブームの中心人物と目されるインキュベーターが、「いま、この日本での」起業のリアルを解説する連載の第4回は、ここ3年ほどの間にできてきたと言われる、起業の「エコシステム」について解説します。

エコシステムってなんだ?

 前章では、起業家と起業家をとりまく「環境」がどう変わったかを説明しました。この章では、その環境のうち、特に大きな変化を遂げて「日本版エコシステム」とも言えるようになった、現在の起業家同士の関係性や、専門家、行政、投資家そして大企業とのつながりについてお話ししていきます。

「エコシステム」とは本来、自然界の「生態系」のことですが、ビジネス用語にもなっていて、「自然界の生態系のように循環の中で効率的に収益を上げる構造」のことを意味します。僕もふだんはそんなに意味を考えて使っていないのですが(笑)、ここではざっくりと、「起業家を支援するしくみ全体」としておきましょう。

 4年前にシリコンバレーでこのエコシステムの存在を知ってから、日本で同じものをつくるにはどうしたらいいのかずっと考えてきたのですが、最近になって、僕らの周りにもエコシステムと呼べるものができてきたように感じます。どうやら、ベンチャーを育てるエコシステムが成立するには、(起業家の存在は当然として)次の4つの要素が必要になるようです。

1. 起業家同士のネットワーク
2. 起業家をサポートする専門家、中央行政や地方行政
3. 多種多様な投資家
4. ベンチャーの受け皿となる大企業によるバイアウト

 その役割も含めて図にまとめると、次の図のようになります。順番に解説していきましょう。

1. 起業家同士のネットワーク

 起業家同士のネットワークとは、起業家同士で切磋琢磨したり、情報を共有するということで、エコシステムの構築に非常に重要な要素です。そのためには、ある程度近いところに集まっている必要があります。シリコンバレーのようなところにベンチャーが集まったり、「ナナロク世代」「ハチイチ世代」と呼ばれる起業家のグループができるのは、そうしたメリットがあるからなのです。

 また、たくさんのイベントを通して人と人との繋がりを深めることで、起業のきっかけが生まれます。起業に興味のある人が実際にアイデアを形にして事業にしたり、求めていたパートナーやエンジニアが見つかったりする機会が増えるからです。

 SNSの普及で、こうしたネットワークはどんどん広く、強くなっています。良いサービスを開発すれば、起業家同士のつながりで自然と広まりますし、逆に、何か不義理をすると一気に信用を失ってしまいます。結果として、成功しそうな起業家は、やはりできる起業家とのつながりが自然と強くなっていきます。つながりの好循環です。

 いまの起業家は、こうしたネットワークと無縁ではいられません。ネットワークに入れば、起業家として成功できる確率はかなり上がります。というか、有望な起業家は周りが放っておいてくれません(笑)。コビを売る必要はありませんが、みなさんも「他の起業家とのつながり」については頭に入れておいてください。