また、中央行政および地方行政がベンチャーの育成に力を入れるようになりつつあります。僕は、東京はもちろんのこと、47都道府県で起業家支援イベントを開催しており、各地の知事にお会いする機会も多々あります。各都道府県の行政のみなさんは起業家育成には積極的ですが、実際にイベントの来場者にお会いすると起業をするという選択肢をもっている人が本当に少ないことを痛感します。ただ、サムライインキュベートのような少額投資で、起業支援にコミットをする会社が各地にできて、行政と一丸になって取り組めば、全国的に本物の起業ブームが生まれるのではないかと思っています。

 いまサムライインキュベートでは、地方のベンチャーにも出資を進めており、将来的には47都道府県すべてで投資をする予定です。僕らの投資によって地方の起業家に成功してもらい、成功した暁にはインキュベーターのようになって、地方の起業シーンを活性化してほしいという想いがあるからです。

3. 多種多様な投資家

 投資家の存在はエコシステムには欠かせない存在です。IPOを1つのゴールとして考えると、ベンチャー企業は、「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」と呼ばれるライフスタイルをたどります。もちろんこれは大まかな区分けなのですが、大事なことは、そのそれぞれの段階で適切な投資を受ける必要があるということです。

「適切な投資」とは、投資の額であったり、経営のサポート体制の有無を意味します。ですから、ベンチャーに投資をする投資家は、インキュベーター、エンジェル、VCなどがその役割を分担しているのです。

 たとえばアメリカでは、まずインキュベーターやエンジェルが、シード段階のベンチャーに数百万円を投資します。次のアーリー/ミドルの段階では額が大きくなって、VCから数億円が投資されます。さらにレイターの段階ではIPOやバイアウトが目前になっていますから、VCから数十億円の単位で投資が入ります。

 日本ですと、これほどきれいにいかずに、アーリー/ミドルの段階でも数千万円ずつしか投資されないことも多いのですが、少しずつアメリカ型に近づいてきています。第5回で説明するように、昔からのVCとは違ったタイプの投資家が登場してきたからです。

4. ベンチャーの受け皿となる大企業によるバイアウト

 さて、先ほど日本でもエコシステムができてきたのは、つい最近のことだと書きました。ではなぜ、ここ数年でエコシステムが形成されてきているのでしょうか?
 もちろん、ここまで説明した、

1. 起業家同士のネットワーク
2. 起業家をサポートする専門家、中央行政や地方行政
3. 多種多様な投資家

 がそれぞれ強化されたことも理由なのですが、その大きな要因として大企業によるバイアウトが増え、そこから生じるお金の流れができたこともあります。

 ITベンチャーをつくる起業家は、最終的にはIPO(新規株式公開)かバイアウト(企業売却)をゴールとします。もちろん、どちらも選ばずに堅実に経営を続けていくことはできますが、通常はこのどちらかを目指すことになります。このゴールを「EXIT」(イグジット)と呼び、投資家・起業家がどのようなEXITを狙うかをEXIT戦略といいます。

 かつて日本では、起業家のゴールはIPOがほとんどでした。株式公開により会社は証券市場から資金調達ができるようになり、上場によって知名度や信用度も上がるので、事業を大きく発展させることができます。優秀な人材も確保しやすくなります。

 しかし、IPOに至るまでに時間がかかるのが欠点です。いまでこそリブセンスのように5年で上場する企業も出てきましたが、まだまだレアケースです。また、上場の際のコストや難易度も依然として大きなハードルです。投資家としても、「IPOを目指すんで、10年ほどじっくり待ってください」というベンチャーばかりでは、お金を出す気も失せるというものです。

 一方、シリコンバレーでは起業家のゴールはIPOよりもバイアウトが主流で、期間も短く、ベンチャーの設立から平均2年ほどです。インキュベーターが適切なアドバイスをすれば、そのスピードはさらに半年ほど早まり、ベンチャーへの投資総額も5000万円ほどでバイアウトを迎えられるというデータもあります(濱崎省吾、神戸大学専門職学位論文「シードアクセラレータの関与が投資先企業の成長に与える影響分析」)。

 そうなれば投資家はIPOよりも格段に早く、またリスクも少なくリターンを得ることができますし、お金を得た起業家が支援する側に回れば、投資家の数も増えます。結果、ベンチャー投資に回るお金が増えて好循環がはじまるというわけです。

【著者紹介】
榊原健太郎(さかきばら・けんたろう)
1974年生まれ。名古屋市出身。株式会社アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)創業期において営業統括として、営業本部の立上げ、営業販促戦略、広告商品開発、アライアンス戦略に取り組む。その後、インピリック電通(現 電通ワンダーマン)にて、大手情報通信・飲料メーカー・金融会社のダイレクトマーケティング戦略に従事。その後、株式会社アクシブドットコム(現 VOYAGE GROUP)に復帰、営業統括として、西日本広告販売ブランチの立上げ、営業本部の再構築、モバイルサイトの立上げに従事。2008年にシード・アーリー ベンチャーの経営・マーケティング・営業・人事・財務・CI戦略支援に特化した株式会社サムライインキュベートを設立し代表を務める。スタートアップのベ ンチャーに投資するとともに、60社程のベンチャーの社外取締役を兼務している。

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