良い事業プランは考えた総量や時間に比例する

 僕が2013年3月までの6年間教鞭をとっていた中央大学専門職大学院国際会計研究科(アカウンティングスクール)で、起業を考えている社会人学生たちから何度かこんな相談を受けたことがあります。

「起業したいのですが、どんなビジネスのタネがあるか、いろいろ考えても浮かんできません」

「どのようにしてアイデアを出せばよいかわかりません」

 ちょっとしたアイデアなら、先述したように訓練しだいで誰にでも出すことができるようになりますが、ヒットにつながるような優れたアイデアや賞賛を浴びるような事業プランは滅多に浮かばないし、そう簡単に天啓など起きるものではありません。

良い事業プランは、自分の頭で考えて、考えて、考えて、その結果、全身から絞り出すものです。最終的には、考えた総量や時間に比例するものではないかと思います。

 毎日、100個とか200個とか自分に課してアイデアを出していく。そうすると夜中寝ている間も潜在脳のなかで考えるようになります。眠っているのに真夜中に良い考えが浮かびハッと飛び起きたり、翌朝目覚めた瞬間に良い考えが浮かぶこともあります。毎日毎日の地道な積み重ねが大切なのです。

 昭和の知の巨人、批評家の小林秀雄はこんなことを言っています。

「私が物を考える基本的な形では、『私』と『物』とが『あいむかう』という意味になろう。『むかう』の『む』は『身』であり、『かう』は『交う』であると解していいなら、考えるとは、物に対する単に知的な働きではなく、物と親身に交わる事だ。物を外から知るのではなく、物を身に感じて生きる、そういう経験をいう」(『小林秀雄全集第十二巻 考へるヒント』小林秀雄著、新潮社)

 つまり「考える」とは、その対象である物と一体になって感じて生きることだと言います。もっといえば、対象物になりきろうとする、そうすると何かが見えてくるのです。

 実現不可能といわれていた無農薬・無肥料のリンゴ栽培にチャレンジし、ついに成功させた人物がいます。木村秋則さんです。

 木村さんは、近所や親戚から大バカ者呼ばわりされて無視され続けますが、それでも無農薬・無肥料にこだわり続けます。10年近く無収穫で、自殺寸前まで追い詰められたものの、最後には果実を実らせます。彼こそまさに成功した起業家と呼べるでしょう。木村さんは言います。

「いつも私が基本にしていることがあります。『自分がリンゴだったら、今何をしてほしいだろうか』と考えることです。暑くはないだろうか、寒くはないだろうか、水は足りているだろうか、切ってほしい枝はないだろうか。リンゴの言葉を聞くために、じっくりとリンゴと向き合い観察します。そうすると、『リンゴの声』が聞こえてきます。リンゴの枝の一本一本、葉の一枚一枚が、その声そのものです。自然栽培には、すべてに通用する正解はありません。作物によってもその声は違います。作物の特性を知ることが、『声』を聞くことです」(『奇跡を起こす 見えないものを見る力』木村秋則著、扶桑社)

 彼の生産するリンゴは「奇跡のリンゴ」と呼ばれています。リンゴと一体となろうとして考えた結果が奇跡を起こしたのです。