日本の創造モデルを
磨き上げるために
韓国企業、中国企業のやり方は、「学習モデル」である。学習、つまり模倣の対象は、多くは日本企業であった。これまではそれが成功してきているが、これからはわからない。韓国企業のやり方を中国企業が模倣し、中国企業のやり方を他の新興国企業が模倣しはじめているからだ。
もちろん、日本も最初は模倣から始まった。その対象は欧米であった。模倣できるのは形式知のみで、暗黙知を模倣することはできない。日本企業の強みは、その形式知の模倣から始まる学習モデルから、暗黙知から新たな知を生み出す「創造モデル」への転換に成功したことだ。
その創造モデルを突き動かしているのが共通善(コモングッド)、すなわち、企業は社会にとってよいことを実現し、提供していくべきだ、という信念ではないだろうか。最近、中国企業の幹部を日本に招き、日本企業のトップと懇談する場に同席する機会があったが、彼らは日本のトップが異口同音に「世のため、人のために事業を行っている」と話すことに、非常に驚いていた。日本のトップは市場原理との間で危ういバランスを保ちながら、「武士は食わねど高楊枝」ではないが、「世のため、人のため」をいつも意識している。これがわれわれの誇る「サムライ・キャピタリズム」ではないだろうか。
ただし、これは世界的潮流でもある。イギリスの『エコノミスト』誌は2013年のグローバルトレンドの1つに、「利益から目的へ」を挙げた。「銭(ぜに)金(かね)のため」ではなく、顧客や社会、そして株主からも、その事業を何のためにやるのか、が強く問われる時代になってきているのである。中国、韓国企業も、模倣を軸とした学習モデルから、知識を核とした創造モデルに移行するには、共通善の実現という大義を掲げ、身体性を伴う暗黙知を重視していくしかないだろう。
中国、韓国企業がそうくるとしたら、日本企業もいまの地位に安住することなく、虎の子の「創造モデル」をさらにリファインさせる必要がある。
そのために必要なのが「知的機動力経営」ではないか、と考えている。