異次元緩和によって、マネタリーベースは著しく増えたが、マネーストックはそれほど増えなかった。その意味で、異次元緩和は空回りしている。こうなるのは、貸出が増えないからだ。前回前々回でこのように述べた。では、銀行の資産構成は、異次元緩和によってどのように変化したのだろうか?

 以下では、日本銀行の資金循環統計によって、国内銀行の資産の変化を見ることとしよう。

金融緩和で貸出は
わずかしか増えず

 銀行の資産のうち日銀預け金の残高は、異次元金融緩和政策の結果、2013年4-6月期において、過去に比べて異常なほど増加した。この状況は、図表1に示すとおりだ。

 01年に導入された量的緩和政策、10年に導入された包括的金融緩和政策のときにも増えたのだが、導入前に比べて10兆円程度の増加である。ところが、今回は、13年1-3月期から18.5兆円増加している。12年10-12月期からの増加で見ると、28.3兆円増と、これまでの3倍近い増加を示している。今回の緩和措置が「異次元」であると言われたのは、このかぎりにおいては、そのとおりだ。

 これは、銀行の資産構成にどのような影響を与えただろうか?(なお、以下で「国債」とは、「国債・財融債」を指す。つまり、国庫短期証券は入らない)。

 13年1-3月期からの残高の差を見ると、日銀預け金の増18.5兆円に対して、貸出はわずかに3.3兆円増加したに過ぎない。しかも、増加の傾向が鈍化している。つまり、これまでと比べて、増加額が減少している。

 金融緩和をしたのだから、貸出はピッチを上げて増えていなければならないはずだ。しかし、現実には逆のことが起きているのだ。したがって、教科書的な意味での信用創造過程は生じていないと結論できる(なお、ここでは銀行勘定だけを見ている。銀行勘定と信託勘定の合計では、前回見たように貸出は減少している)。

 また、貸出増自体は、11年1-3月期から続いていることに注意が必要だ。異次元金融緩和政策は、貸出増を加速したわけではなく、むしろ、これまで生じていた増加を抑えたことになる。