10月1日、順調な実体経済の動きを示す9月の「日銀短観」が発表され、それを受けて安倍首相は、来年4月から予定通り、消費税率を8%へ引き上げる意向を表明した。
この決断の最終局面では、オリンピック開催決定と良好な日銀短観の2つが首相にかなりの自信を与えたのであろう。それは記者会見の様子によく表れていた。
今回の首相の決断には表向き大きな批判や混乱は起きないだろう。最大野党の民主党が主導したこと。経済が復調に向かっていること。首相が決断に際して慎重な手順を尽くしたこと。さらに、首相が財務省に取り込まれていない印象を持たれていること。それらの要因が一体となって効果的に働いている。
だが、中・長期的観点から見て、この決断に死角はないのか。不安がないのか。それを展望すると必ずしも明るい経済や生活の姿は見えてこない。
消費税増税後の「3つの不安要素」
いま、不安な要素を3つに大別して考えてみよう。いずれも厳しい見通しと言わざるを得ない。
(1)景気の腰折れ、経済の失速は防げるのか。
安倍首相は、1997年の消費税率アップ(3%→5%)の経過を綿密に検証したという。なぜなら、その増税後に経済は急失速して、日本経済は15年デフレの道に踏み込んでしまったからだ。
財務省は97年からの経済危機について、「消費税増税が主犯ではない」と主張し、それを同年7月のアジア経済危機や11月の北海道拓殖銀行、山一証券など大型金融機関の破綻のせいにしている。
もちろん消費税増税が単独犯ではない。しかし少なくとも最も責任が重い共犯者であったことは否定できない。
特に、96年の景気の回復基調を過大に評価して、消費税増税だけでなく所得税の特別減税の廃止やサラリーマンの医療費の負担憎などで追い討ちをかけたことが消費を一層冷え込ませることになった。