鉄鋼業界で“珍事”が起こった。新日本製鐵の賞与を今期、電炉子会社の大阪製鐵が上回ってしまうのだ。新日鉄の年間平均賞与は165万円、大阪製鐵が185万円であり、20万円もの大差がつく。

 大阪製鐵は、自己資本比率84%など強固な財務体質を誇る。前期は75%もの増益を果たし、業績好調でもある。それにしても、日本の代表的企業である新日鉄の賞与が、売上高で30分の1の規模にすぎない子会社に逆転されるとは異常事態である。なぜか。

 大阪製鐵の賞与が上がったのではない。新日鉄のそれが大きく下がったのだ。前年比で下げ幅55万円、マイナス25%という大幅削減である。たとえば、神戸製鋼所も下げ幅57万円、32%も減っている。ただし、2008年度の神鋼は単独経常減益率60%で、新日鉄の42%減より業績悪化が著しい。

 新日鉄の賞与が大きく下がったのには、理由がある。新日鉄をはじめ鉄鋼業界にも業績連動型賞与が幅広く導入されているのだが、他社は前期業績を基に決定している。それに対して、新日鉄は2割程度、今期業績見通しを加味して賞与を算出している。

 第2四半期まで好調だった前期と違い、今期は依然として不況の出口が見つからない。見通しは保守的となり、新日鉄は今期経常損益(単独)を500億円の赤字と予測している。この数字を加味した結果、賞与の下げ幅が大きくなり、業績連動ではない子会社の賞与を下回ったというわけだ。

 日本企業の多くは景気の先行きを楽観せず、今期、固定費圧縮を加速させると見られるが、その先行事例ともいえよう。

 だが、新日鉄の賞与制度は、業績の回復をいち早く取り込めるし、経常利益250億円以上かつ実績が当初予測数値を上回れば、その2割が翌年の賞与にプラスされる“ニンジン”もある。つまり、新日鉄の賞与は、景気とりわけ家計消費の動向を探る先行指標ともいえるのである。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)

週刊ダイヤモンド