フォード・システムとトヨタ生産方式
優れているのはどちらか?

第4章は、「近代工業における自動車生産の基本」と言われたフォード・システムとトヨタ生産方式の対比が述べられています。
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 じつはこの「かんばん」は、米国でスーパーマーケットを視察した際に思いついたアイディアだったことを大野氏は本書で明かしています。買い物客が自分の欲しい商品を必要な量だけカートに入れる様子を見ながら、トヨタの工場でも後工程が必要とする量だけを前工程から持ってくれば、前工程で不要な在庫を抱えなくても済むのではないかと考えたのです。

 アメリカでヒントを得たこの「スーパーマーケット方式」は、日本在来の「富山の薬売り」や「御用聞き」「ふり売り」などの商法よりも、売る側からみれば、いつ売れるか不明なものを持ち運ぶ手間のいらないやり方であるし、買う側からみても、ついつい余分なものを買ってしまうという恐れの少ない、合理的な方式である。(50ページ)

 トヨタ生産方式は、第2次世界大戦前の米国自動車産業における生産方式、すなわち主にヘンリー・フォードが開発した生産方式を研究し、豊田喜一郎氏らが提唱していた考えを大野氏らが体系化したことは前述したとおりです。1903年に創業したフォード社はフレデリック・テイラーの科学的管理法(本連載第8回参照)を導入し、8時間労働制を取り入れ、コスト管理を徹底した大量生産方式を完成させました。そのテイラー・システム、あるいはフォード・システムと呼ばれる生産方式とトヨタ生産方式はどこがどう異なるのか。大野氏は次のように指摘しています。

同種の同型の部品をまとめてつくる、つまりロットを大きくまとめて、プレスの型を替えないで、なるべくたくさん打ち続けることが、現在もなお生産現場の常識である。フォード式の量産システムのカギは、まさにこの点にある。ロットを大きくして、計画的に量産することがコスト・ダウンに最大の効果があることをアメリカの自動車企業は証明し続けてきたのである。

 トヨタ式はその逆をゆく。「ロットはできるだけ小さく、プレスの型の段取り替えをすみやかに」というのが私どもの生産現場の合言葉である。
なぜこうもフォード式とトヨタ式とでは違いが出るのか。なぜ対立的になるのか。

 たとえば、ロットを大きくして量をこなし、各所に手持ちの在庫を必要とするフォード式に対して、トヨタ式はそれら在庫から生ずる恐れのあるつくり過ぎのムダ、それを管理する人・土地・建物などの負担をゼロにしようという考え方である。

 ……要するに、フォード式は同じ物はまとめてつくってしまおうという考え方なのに対して、トヨタ式は「最終の市場では、お客さんが一人、一人、違った車を一台ずつ買うのであるから、生産の場においても一台、一台つくる。部品をつくる段階においても、一個、一個つくっていく。つまり、『一個流しの同期化生産』という考え方に徹する」やり方である。(175~176ページ)

フォード式とトヨタ式のいずれが優位を占めるか。いずれも、日々新たに改善・改革をしているのであるから、早急な結論を出せる問題ではないが、私自身は当然、トヨタ式が低成長時代に合致したつくり方であると確信している。(178ページ)