会社の窮地にエンジェルが
1億円の小切手を渡してくれた理由とは?
田中 御社コーポレートサイトに、CEO吉松さんがアイスタイルの歴史を紹介されているページがありますね。本当にいちばん資金調達で苦しんでいるときに、100社くらいベンチャーキャピタルを回って断られた、なんていうお話しもありました。そんな大変な状況で最後に飛び込んでいったエンジェルが1億円の小切手を切ってくれたというエピソードも拝見しました。そのときは、菅原さんも一緒に苦労されたかと思いますが、最後にひとりのエンジェルが1億円を出資してアイスタイルさんを救ってくれた要因はいったい何でしょうか?
菅原 当社社長の吉松の座右の銘が「折れない心」なんです。結果的に「あきらめなかった」ということに尽きると思います。当時、まだ私はCFOではありませんでしたので、1億円の出資についてはあまり貢献していません。もっとも、私は、ベンチャー企業の資金調達というのはCFOの仕事ではなく、CEOの仕事だと思っています。
2000年にネットバブルが弾ける直前は、当社も5億円近い資金調達の具体的な計画があったのですが、その話も立ち消えになりました。そして、社員に対する給料の支払いも2ヵ月遅れ、銀行の預金通帳にお金がほとんど残っていないという状態になったこともあります。さらに悪いことに、そのときは今と違って売上自体がほとんどないですから、入ってくるお金がないのにオペレーションに必要なお金だけがドンドン出ていきました。
保田 ベンチャーキャピタルではなく、エンジェルである学校法人に出資のお願いをしに行くということがどれだけ切羽詰まっていたかを如実に表していますね。
菅原 当時は、レビューサイトでお金を儲けるというビジネスモデルが世の中にまだなかったんですね。そのため、多くの企業から「潰れるぞ、お前たちの会社」と何度言われたかわかりません。「なぜ悪いことを書くメディアに対して広告主がお金を出すんだ?」と指摘されるわけです。それはそうですよね。ところが、消費者は良いことばかり言う企業の広告を信用していない側面があると思うんですよ。「ピュアな意見が出ているレビューサイトだからこそ、メディアとしての媒体価値があるんです」という話を何度もしました。そのようなビジネスモデルを誰もチャレンジしていなかったので、我々はどうしてもチャレンジしたかった。特に創業社長の吉松は、「まだ戦ってもいないのにゲームオーバーなんて嫌だ」という執着心が強かったんだと思います。
田中 そこに尽きますよね。
菅原 出資をしてくださった学校法人の理事長さんは、70代の方で、今も当社の株を数パーセントお持ちです。学校経営者ですし、2000年のことなので当然まだネットビジネスなんて理解されているわけもありません。もうお耳も遠いですし、パワーポイントのフォントサイズも24以上じゃないと字を読みづらいといった方でしたので、資料をA3用紙数枚にまとめて持参しました。実際には、ビジネスの話はほとんどせず、面談の間ずっと吉松の経営理念などを聞かれるような禅問答みたいなやり取りが半日以上も続きました。そして、最後にその場で1億円の小切手を渡されたんです。小切手なんて見たこともなかったので、初めは何を渡されたか分からなかったそうです(笑)。
田中 若いベンチャー企業の人たちは、小切手なんてあまり見たことないですよね?
菅原 「落としたらどうしよう」と怖くなって大切に守りながら帰京したそうです(笑)。あれがなかったら当社は本当にアウトでした。吉松は、小切手を内ポケットにしまっておいたスーツの上着を3日間くらい脱げなかったと言っていました。どこに保管していいものやら、なくしてしまうのが怖くて(笑)。その小切手1枚に社員や事業の将来から全部かかっているわけですからね。
次回は12月13日更新予定です。
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