種カキは海に回遊する卵をホタテ貝に付着させる。ユリの花が咲く頃にホタテ貝を沈めるといい、と昔から言われているが、水温と気温、それから月の満ち欠けなどを見て、判断する。まさに自然と向き合う仕事だ

 奥松島水産は50年以上に渡って「種カキ」で有名だ。柿の種ならいざ知らず、種カキとは聞き慣れない言葉だと思うが、ようはカキの稚貝である。

 カキの養殖家はこの『種カキ』を業者から買いつけ、それを育てて食材として出荷する。著名なカキ養殖家の畠山重篤氏は『牡蠣礼賛』という著作のなかで『カキ養殖業のスタートは、まず良い種苗をとることからはじまる。種苗が悪いと後でどんな手入れをして頑張っても品質のいいカキに育てることは難しい。種苗の重要性を例えて漁民は、種半と称している』と記している。

 カキ養殖家のことを英語で『Farmer』(農場主)と呼んだりもするらしいが、種の重要性はどこか海を畑に見立てた農業にも似ている。

 この『種カキ』。単純な食材としてのカキの出荷量では広島が1位だが、種となると宮城が堂々の1位である。ミヤギ種の種カキは病気に強いと評判で、北海道や三重県をはじめ、海外にも出荷されている。1970年代にフランスのカキにウイルス性の病気が蔓延し、生産者達が被害を受けたことがあり、その際に輸入され、主流になったというエピソードでも有名だ。

 病気があるので『種カキ』というのは簡単に他から持ってくる、というわけにはいかない。また生命力の弱い他の種では、生存率が下がり、生産量に響いてくる。震災によって危ぶまれた出荷も、現在は回復しつつあるようだ。

「うちの親父は種にしか興味がないっちゃ」

 話を伺っている最中も、阿部さんのお父さんは忙しそうに浜を動き回っていた。宮城でつくられている種が日本のカキを陰で支えていると言っていい。いや、先のフランスのケースを引くまでもなく、種は世界にも出荷されているので、恩恵に預かっているのは日本だけではない。

「北海道をぎゃふんと言わせたい」
若きカキ養殖家の挑戦がはじまった

 奥松島水産では震災以後、三代目が中心になって自社でカキ剥き場もつくり本格的なカキの生産にも乗り出している。種から育てるカキは全国でも珍しい。

「うちのカキを出荷して、北海道とかに持っていって、ブランドになっているのを子どもの頃から見ていて、おかしいなって思っていたんすよ。自分たちで販路を開拓して、価値を認めてもらって、北海道をぎゃふんと言わせたい。「ブランド化」とかみんな言ってるじゃないすか。そういうのじゃなくて、食べてくれた人があそこはブランドだよっていってもらいたい」

 カキを試食させてもらったが、非常においしかった。他の産地と比較しても、風味のクセが強くなく、穏やかであり、旨味が非常に濃いので、甘味の余韻が長い。奥松島水産はオンラインショップも持ち、その場でも買うことができる。

 ここでは紹介しきれないが、他にもまわった産地にもそれぞれの味があった。動画で訪問した先の一端をごらんいただけると思う。生育環境の多様さを少しでも味わっていただけると嬉しい。