「1:29:300」という法則をご存じだろうか。アメリカの技師が発表したもので、「ハインリッヒの法則」と呼ばれているそうだ。1は「重大災害」、29は「軽傷の事故」、そして300が「ヒヤリ・ハット」、つまり無傷の事故にあたるという。

 つまり、うつ休職者が1人現れたら、その裏には300のうっぷん晴らし、つまり、目に見えない「共食い」が行われていると思ってよいだろう。大切なのは、職場全体のそうした雰囲気を変えること。そして、ヒヤリ・ハットを見逃さないことだ。

 このとき役に立つのが、実際にうつを体験した人の「気づき」だと渡辺さんは話す。管理職研修などで一通り教えられるうつのサインは、すでに発症してからのもの。だが、発症してしまってからでは遅い。ヒヤリ・ハットの段階で気づき、食い止めなくては意味がないのだ。こればかりは渦中にいる当事者にもわからないことが多いが、体験者なら見抜けるはずだ。

 うつを体験していない人も、周囲の状況を敏感に察知するアンテナを持つべきだろう。

 水槽の水が濁り、エサが足りないと感じたら、まずはザリガニの動きに注意することだ。そして、自分の身を守りつつ、小さなメダカをサポートする。相談に乗り、愚痴を聞くだけでも、相手の悩みは軽くなるはずだ。ほうっておくと共食いが起こり、職場崩壊につながりかねない。ストレスの連鎖を断ち切るには、立場の壁を越えて人と人がつながるしかないのだ。

【今回のポイント】 派遣社員がパワハラを受けたら

今年5月、大阪府内の男性派遣社員が、パワーハラスメントなどについて苦情を訴えたところ、派遣契約を解除したのは解雇権の乱用にあたるとして、派遣先の電気機器メーカーを訴えた。このように職場でパワハラを受けたら、場合によっては法的手段に頼ることもできる。「法テラス」など専門家の相談窓口に連絡してもよいだろう。