タクシーの需給で見るサービス産業

 医療は典型的なサービス産業である。サービス産業には、モノである財の市場とは違う独特の調整メカニズムがある。それを理解することが、日本の医療産業のあるべき姿を考えるうえでも、重要なポイントとなる。そこでまず、経済学でよく利用されるサービス産業の典型的な事例「タクシー」のケースで説明したい。

 タクシーの需要と供給はどのように調整されるのだろうか。これは通常の商品とは異なる。ハンバーガーや家電製品の需給であれば、需要量と供給量がちょうど一致するのが需給バランスである。供給したハンバーガーしか消費できない。あるいは、需要された以上に供給しても、余りは売れ残りとして破棄するしかない。モノの市場では、需要量と供給量は一致するのだ。

 タクシーのようなサービスでは、こうはならない。仮にタクシーが大量に走っていて客が少なければ、空車で走っているタクシーの数が多くなる。タクシー運転手にとっては大変なことだが、利用者にとってはいつでも空車を見つけられるので便利だ。逆に、タクシーが少なくて乗客が多ければ、タクシーの運転手にとっては客をすぐに見つけられて好都合だが、乗客にとってはなかなか空車がつかまらなくて苦労する。

 タクシーでは、需要と供給の多寡は空車を見つけやすいかどうかというサービスの質に大きな影響を及ぼす。ただ、最終的に需要と供給はどんな場合でも一致することになる。

 政策的な視点から見れば、これは難しい問題を提起することになる。タクシー料金をどのように設定すればよいかということだ。

 仮にタクシー料金が規制で決まるとしてみよう。もし料金を高く設定すれば、乗客にとって費用は高くなるが、いつでも空車を見つけられるという質の確保が可能となる。逆に料金を低く設定すれば、乗客にとって費用は安いが、空車がなかなか見つからないということになる。

 コストと質の間にトレードオフの関係が出てくる。どのあたりの料金が社会的に最も望ましいかを判断するのは難しい。また、料金規制をしないで競争的に価格を設定できるとしたとき、それで決まる料金が社会的に好ましい水準になるかどうかも明らかではない。