「福島第一原発事故の衝撃を日本の科学界がどう受け止めたか」を含む発表を行ったDavid R. Cope氏。津波で被災した地域の写真が掲示されると、会場にいた参加者たちは厳粛な面持ちになった
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 このシンポジウムの中で、David R. Cope氏(ケンブリッジ大)は、「Issue-Driven R&D Strategy in the United Kingdom and the Debate on “Impact”(英国における問題駆動型研究開発戦略と、「影響力」に関する議論)」というタイトルで講演を行い、福島第一原発事故についても言及した。

 日本の社会・科学界が福島第一原発事故の衝撃を受容しつつ、同時に、発生した問題に駆動される形で研究開発を行わなくてはならないというジレンマ。どのような体制・どのような方法論によれば、このような状況に対応することができるのか。どのように、研究開発の影響力を示すことができるのか。いまだ、決定打となる何かがあるわけではない。Cope氏は、英国を中心に各国の例を引きつつ、現在行われている試行錯誤と現時点での状況について説明した。

 このシンポジウムは、150人以上と思われる参加者が熱心に聴講しており、質疑応答も活発に行われていた。「立ち見」する参加者もいたほどである。もちろん、参加者のほとんどは、日本人ではなかった。どこの国でも、

「研究者たちのモチベーションを向上させつつ、喫緊の課題を解決してゆくためには、どのような政策やどのような体制が必要なのか」

 は、科学研究に携わる人々の切実な関心事なのだ。

 東日本大震災から3年が経過した現在、東日本大震災も福島第一原発の問題も、決して忘れられてしまったわけではない。現在は、3年という短くはない時間の経過によって「咀嚼」され、さまざまに解釈され、知見が吸収される途上、というべきである。

震災で表出した専門家の「責任と倫理」
「ソーシャルメディア」の問題点

 東日本大震災に関連する、他の2講演についても、軽くではあるが紹介しておきたい。

イノベーションと責任・倫理についての発表を行った吉澤剛氏。50名ほどの参加者たちが熱意をもって聴講し、熱心な質疑応答を行った
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吉澤剛氏(大阪大学)は、先に紹介したシンポジウムと同日の2月15日午前、「Individual or Institutional? Responsibility and Ethics in Innovation(個人として? 組織として? イノベーションの責任と倫理)」というタイトルで講演を行った。学会等の科学技術コミュニティが、どのように社会的責任を果たすべきかに関する、直截な問題提起である。

 講演の中では、日本の数多くの学会が東日本大震災にどう対応したかが紹介された。日本気象学会は、放射性物質の飛散予測を公開しないよう会員に求めた。日本原子力学会は、独自の調査委員会を設置して「専門家のコミュニティとして責任を果たしている」とした。日本地震学会は、東日本大震災を予知できなかったことについて「地震学の敗北」と自己批判した。

 2011年、このような出来事が相次いだことを、「ああ、そういえば」と記憶している方も多いだろう。吉澤氏は、ある大学に所属していた地震学者が社会に対して活発に情報公開などの科学コミュニケーション活動を行った結果、その活動を積極的に評価する別の大学へと異動することになったエピソードも紹介し、会場から苦笑・溜息などの反応を誘っていた。