どんな会社でも、トレンドを見ることには意味がある

保田 ところで、未上場の企業で税理士さんや経理部長が分析するときに見ている指標はまったくないのでしょうか?

石本 重視している指標は財務的な指標じゃないケースのほうが圧倒的に多いと思います。未上場の会社は「受注」が目標になっていて、毎日管理されています。売上が立つのは、受注から1ヵ月後や2ヵ月後ですが、実際に売上が立つときは、そんな過去の数字には経営者も営業マンも興味がなくなっています。

田中 展示会で受注を取っていくようなアパレル卸の業界などは典型的ですね。でも、そのようなビジネスモデルの会社なのに、毎月の営業会議で営業マン別の売上高を見て、ああでもない、こうでもないと議論している会社があります。未上場企業で教科書的な財務指標なんて計算してもそれほど有効ではありません。

石本 そうなんですよ。あえて言えば、中長期的な推移を取ることには意味があります。トレンドがわかりますから、経営上の問題を早期に発見することが可能です。

田中 トレンドというと在庫の回転率などですよね。5期間の指標を並べてみるとか、60ヵ月並べてみるとか。1人当たりの売上や利益というのは規模の大小に関係なく有効ですよ。

保田 この連載では、月次決算をお勧めいただくのが定番のようになっています。いろんな規模の会社があると思いますが、石本さんは、だいたい何人くらいの規模から月次決算を推奨していますか?

石本 一般的に、経営者はキャッシュフローの認識が想像以上に肌身でできていると感じています。ほとんどの中小企業の社長さんは、会計上の利益とキャッシュフローの間にある時間的なズレをきちんと認識しているものです。だから、社員数で10人から15人くらいの規模の会社で月次決算を本気でやる意味がどこまであるのかなぁとも思います。

田中 私も同感です。

石本 しかし、社員数が30人、50人となってくるとレベルが変わってきます。原因がよくわからず売上が増えたり減ったりするようになります。現場の隅々まで見えているつもりでも見えなくなってくるものです。こうなると、月次決算が有効になってきます。自分がカバーできる範囲を超えてくると、やはり月次決算をきちんとやらないといけません。

保田 中小企業は、兎にも角にもキャッシュですよね。現金をいかに手許に多く残すかに腐心するわけですが、月次決算をしないような会社の経営者はキャッシュの動きをどのように確認しているんですか?

石本 シンプルに銀行の預金通帳を見るんですよ。通帳に記載されている残高が帳簿と合えばOKということですね。実際に我々税理士が月次試算表をつくっても、現預金以外に社長が重要視している数字なんてありません。唯一信じられるのが現預金だけという感覚です(笑)。