経営状況が危うい会社のサイン

田中 ではベンチャーの話から離れて、石本さんの経験から、会社の経営状況が危うくなるときのサインなどがあれば教えてください。

石本 決算書でわかるサインというと、売掛金や棚卸資産の回転率を時系列で見るとわかりますよね。売れなくなった商品や回収できなくなった債権がたまっているケースです。また、最近では(物があるわけではないために)ごまかしやすいという理由で、社内の人件費や経費が明確な根拠もなくソフトウェアとして資産計上されてたまっていることがあります。会社の規模が大きくなってきたときに投資の部分が妙に膨らんでくるというのも何か変なものが入っているかもしれないと疑います。

田中 未上場の会社でお金が足りなくなるのも結局はそれが原因です。投下した現金が回収できなくなった、ということですから。いつまでたっても問題を処理できないままズルズルと行ってしまうわけですが、石本さんは、それで復活した会社を見たことあります?

石本 本当にないですね。

田中 では、決算書から読み取れるサインではなく、経営者の行動などから見られるサインもありますか?

石本 資金繰りが行き詰まってきた会社の経営者はどんな行動をするだろう? と想像してみるとわかると思います。まず、今までオープンにしていた財務数値を急に共有しなくなる。秘密主義になりますね。

田中 わかりやすいですね(笑)。

石本 あれっ! 何だ!? と思ったら、それまで成長していた売上や利益の数字を見せて誇らしげに語っていた経営者が突然、無口になっていきます。ウェブサイトでも決算数値を公表していた会社がなぜか3年くらい前から更新していない、なんてケースです。

田中 成績が落ちたから通信簿を隠す子どものような感じでしょうか(笑)。

石本 とはいえ、経理担当者はその数字をつかんでいますよね。だから、経理担当者がコロコロ変わっていくんです。マズイことに巻き込まれそう、ウチの会社はお金がないな、ということが見えると、最初に気づくのがおカネを扱う経理担当者です。この人たちの中には逃げ足が早い人もいるので、税理士は「あれ、何かおかしいよね?」とわかります。特に長年社長の信頼を得てきた経理部長が突然辞めるケースは「何かあったな」と確信しますね。

田中 経理部長の動きが経営危機のレーダーの役割を果たしているんですね。

石本 そして、本当に資金繰りが逼迫してくると月末に社長が社内からいなくなります。だいたい社長が月末の資金繰りを手当てするために、慌ててどこかを走り回っています。今まで月末も社内にいたにもかかわらず。さらに、月初は社長が社内にいるのに居留守を使い出すんです。経理部や社長にどんどん電話がかかってきているのに、みんな居留守を使います。こうなると末期症状ですね。


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