写真 塚田比呂子 |
東西ドイツ統一から10年あまり、「融合如水」をテーマに、旧東ベルリンに日本庭園を造った。ベルリンの壁が崩れた後も、東側に移り住む人は少なく、住民たちのあいだには見えない壁が存在していた。
石組みの滝から溢れる水が、芝生のあいだをおおらかに流れ、小さな池へと注ぐ。形にとらわれることなく交じり合い、淀むことなく流れゆく水に、東西融合の思いを託した。
ノルウェーのベルゲン大学医学部庭園では、フィヨルドの街を囲む大自然が持つ静寂を枯山水などで表現し、コンクリート打ち放しの近代的な建物と対置させた。現代医学を研究する人たちに、自然の尊厳と心の静けさを忘れずにいてほしいと願った。
開山から約450年を数える禅寺の住持である。小学生の頃に日本庭園の美しさに魅了され、写真を見ながらひたすら模写した。高校1年生で造園の第一人者に師事。その技術を受け継いだ。
雲水修行を経て、作風は大きく変化する。表面的な美しさや技術にとらわれず、石や木をありのままの姿で生かしながら、思想や哲学を空間芸術として昇華させること。
その行為そのものが禅の修行に通じるという、「禅庭一如」の精神を悟った。かつて、作庭によって禅の境地を具象化した「石立僧」と呼ばれる僧侶たちがいた。そのただ一人の後継者となったのである。
枡野俊明の作庭に佇むとき、つかの間ながら尊い静謐に、心を満たされる。
(ジャーナリスト・田原 寛)
枡野俊明(Shunmyo Masuno)●禅僧・庭園デザイナー 1953年生まれ。曹洞宗建巧寺第18世住職。多摩美術大学環境デザイン科教授。97年日本造園学会賞、99年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。著書に『禅と禅芸術としての庭』(毎日新聞社)など。現在、寒川神社(神奈川県)やシンガポールでの庭園プロジェクトを抱える。