しかしユーロ圏の場合、QEにはなかなか踏み込みにくい事情がある。特にネックは、購入対象となる資産だ。要するに「何を買うのか」が問題になるのである。

 どの国の国債を購入するか、というテクニカルな問題もさることながら、そもそも国債を購入しても、欧州では「実体経済への効果波及が期待しづらい」(加藤出・東短リサーチ社長)。「米国では信用仲介の80%が資本市場を通じて行われているが、欧州では80%が銀行システムを通じて行われている」(ドラギ総裁)ためだ。

 となると、(3)貸出債権を証券化したABSを購入することで、伝統的な銀行チャネルを通じた効果波及を期待する他ない。

 だがユーロ圏では、この市場に米国の政府系機関(エージェンシー)債市場のような厚みはない。「モーゲージ担保証券(MBS)を含めても1兆ユーロ程度の市場規模しかなく、しかもECBが買えるような高格付け資産は南欧に乏しいなど、域内で偏在している」(中村正嗣・みずほ総合研究所シニアエコノミスト)のである。

 今回の理事会の決定は、こうしたハードルをクリアするまで、あるいはQEを回避するための“時間稼ぎ”という位置付けだろう。

 また、FRBが利上げに近づけば、これこそECBにとっては時間稼ぎになる。6月18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で今後の利上げ見通しがどう示されるか、見守っているに違いない。

 ECBの掲げるインフレ目標を大きく下回る状況が続く限り、市場はQE実施を迫り続けるだろう。今年秋ごろから年末にかけて、ECBがQEに踏み切るかがグローバル金融市場の次なる焦点となる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)