桜井 そういえば、「イタリア人に道を聞くな」とよく言われますね(笑)

ヤマザキ 本当にハッタリでモノを言いますから、50分かかる道のりを平気で「5分」と言ったりしますので、要注意ですよ。

イタリア人が食に超保守的な理由は
古代ローマ帝国時代の忘却にあり?

桜井 ヤマザキさんもシカゴで購入してくださったと聞いて嬉しかったのですが、私たちは2000年ごろから<獺祭>を海外市場で展開しています。いまの最大市場はニューヨークを中心とするアメリですが、ヨーロッパやアジアでも拡販に努めているなかで、最後になるだろうなあと思っているのが実はイタリアなんです。お酒に合うフグなどの食事と一緒に薦めても、反応が今ひとつなので…。

ヤマザキ イタリアほど食に対して保守的な国はないですからね。リスボンに住んで、まったく対照的なポルトガル人の食生活を知っただけに、イタリア人の頑さを痛感します。

お姑さんと大げんかに…?!

 特に、イタリア人は塩気を大事にするんです。古代ローマ時代から塩が貴重品だったためかわかりませんが、何にでも素材の味というより塩味を要求します。私が日本の小豆島産の素麺をゆでて出したときも、「何これ?! 塩気が全然ない!」と文句をいう姑に、「米粒の味も分からないくせにグルメぶらないでください!」と応戦して、大げんかになりました(笑)。

桜井 それは両者ともに強烈ですねぇ(笑)。

ヤマザキ お米を食べて育った人は日本酒の繊細さがわかるけど、塩で慣らされたイタリア人はいきなり日本酒を出されても、その繊細な味わいを理解できないかもしれないな、と思いますね。通常7色といわれる虹が10色に見える民族もいるように、日本人の食に関する感覚の細分化はすごいですから。

 イタリアが統一されたのは、わずか130年程前の話であって、それ以前は自治国家でそれぞれ独立してました。いまだに、自州でとれた酒やオリーブオイルしか食べない、という極端な人もいるほどです。これが、イタリアの家族主義や、ひいては、食の保守性につながっている気がします。

桜井 同じ欧州のラテン系でも、フランス人はそこまで食に対して保守的ではありませんよね。

ヤマザキ フランスはかつて、世界のあちこちに植民地を持っていたので、そこから流入してくるさまざまな食文化と接してきて寛容性が育まれたのではないでしょうか。

桜井 それを言えば、古代ローマも一時はかなり勢力を拡大したはずでは…?

ヤマザキ 当時から何十世紀も経ってしまって、現代のイタリア人は完全に忘れ去ってしまったんですよ、風呂と味覚に対する寛容さを。古代ローマ時代は、ワインの名産地も色々あったようですが、中世にキリスト教が広まって飽食をとがめられて以来、食べ物への意欲は大きく減退し、小さい半島内ですべてをまかなうようになって、今の保守性につながってきていると思います。

 サッカーのイタリア代表チームも、海外遠征の際はつねにイタリア人シェフを帯同し、いつも使うオリーブオイルを持ち込むらしいですから、徹底してますよね。