写真 加藤昌人 |
かつて、炭鉱の町として栄えた北海道美唄市。石炭の時代が終わりを告げると、人びとは去り、廃校となった小学校が残った。イタリア、トスカーナ郊外に居を構え、創作活動を続けてきたこの世界的巨匠は、17年も前から、朽ちかけた故郷に命を吹き込み続け、彫刻公園「アルテピアッツァ美唄」が生まれた。
40点もの大理石とブロンズの作品が、緑の大地に腰を下ろし、子どもたちの歓声の記憶を残す教室や体育館を飾る。「アートとは、知ることではなく、感じること」。その言葉どおり、独特の柔らかい曲線、光と影を抱く凹凸に触れ、またがり、横たわると、宇宙とのつながりを実感できる。
芝生が広がる広場にはまぶしい白の2本の柱が、まるで天から降りてきたように突き刺さり、真ん中の1本は大地とのすき間に「真実」を表現している。真実の下を流れる水は「時間」。なにも解釈しない子どもたちは、喜んで浸り、甲高い笑い声を上げる。子どもたちの歓声が帰ってきた。
もう40年も、石と向かい合ってきた。
「もたっとしているところを磨き込んでいく。最後のひと皮を剥ぎ取った瞬間、生命体を宿したように、ふっと呼吸を始める」
その石はミケランジェロが500年前に彫り続けたものとまったく同じだ。東京ミッドタウン、フィレンツェ・ボーボリ庭園――。世界に点在する安田侃の彫刻は、悠久の時の存在を、儚い命である私たちに教えてくれる。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)
安田 侃(Kan Yasuda)●彫刻家。1946年生まれ。東京藝術大学大学院彫刻科修了後、1970年イタリア政府招聘留学生として渡伊。ローマ・アカデミア美術学校でペリクレ・ファッツィーニ氏に師事。「アルテピアッツァ美唄」で、第15回村野藤吾賞を受賞。2008年1月28日までフォロ・ロマーノ、トラヤヌス帝の市場にて、ローマ展「時に触れる」を開催。