余命1年、元自衛官の訴え
「殺し殺されるのが仕事ではない」

 7月1日の閣議決定以来、早や1ヵ月。しかし一件落着どころか、集団的自衛権行使のための解釈改憲に世論の反発は日毎に増すばかりだ。

 このところ、今まで封印されていたかのような、自衛隊内部、自衛隊関係者の不安と戸惑いのホンネが堰を切ったように漏れ出している。

 そんな自衛隊の実態をもの語る象徴的な出来事が今、インターネット上で大きな話題になっている。

 集団的自衛権の行使に反対する元自衛官(60歳)が神戸の街頭に立ってその思いのたけを訴えたというのである。

 彼はこの4月にガンで余命1年と宣告されたというから黙っていることを良心が許さなかったのだ。90代になった元関西電力副社長が、数人の首相に巨額な裏献金をしていたという事実を明らかにしたが、その心境には通じるものがあると推察できる。

 この元自衛官は、東京新聞(7月28日)によると、「自衛隊の仕事は日本を守ること。見も知らぬ国に行って殺し殺されるのが仕事なわけがない」と怒る。一方で彼は、「自衛官は命をかけて国民をしっかり守ります。安心してください」と誇らしく語っている。

「集団的自衛権は他人のけんかを買いに行くこと」という彼の認識は正しい。しかも、往々にして非のある側の援軍にもなりかねない。

 それに、「閣議決定で集団的自衛権を認めてもですよ。この国の主人公は内閣と違いますよ、国民ですよ」という主張は全く正しい。

 いかに強権的な帝制でも王制でも、民意を軽視すれば安定的に統治することができない。それなのに日本では民主制下で民意を無視して、解釈改憲を強行した。

 今回の解釈改憲は、国民主権の理念を台無しにして国の法体系の根幹まで変えようとするものだ。官僚はよく「行政権は内閣に属する」と言うが、それは国民主権の理念に沿っていることが大前提だ。