粉飾を見破る能力が必要
アルコールが回るほどに、安曇の話は難しくなった。
「それから決算書を分析する際の注意点を言っておこう。決算書はそれが会計的に正しく作成されていなくてはならない、ということだ」
と言って、安曇はこんな話を始めた。
「もし決算書が作為的に手を加えられていたら、決算書の数値と会社の実態はかい離してしまう。そんな決算書をいくら分析しても、まったく意味がない。つまり君たちには粉飾を見破る能力も必要なんだよ。巧妙な粉飾決算は、高級ブランドのコピー品のようなものだ。本物を見分ける目を持っていないと、ころりとダマされてしまう。ここでも経験がものをいう」
安曇の話は続いた。
「会計的に正しい決算書であっても、会社の本当の姿は見えてこない。なぜなら、決算書は要約データに過ぎないからだ。工場にまったく動かない機械装置があっても、どんな商品が売れたのかも、決算書を見ただけではわからない」
ヒカリは何となくわかってきた。
外観からは、その会社の健康状態をある程度は推察できる。
だが、会社内部の状況まではわからない。どのような病気にかかっているか、特定できないということだ。
「わかってきたようだね。外観の観察は、そうした限界をわきまえたうえで行うべきなのだ。その会社の風評、業界全体の景気もあわせて頭に入れておくことが大切だ。間違っても、決算書を分析すれば、会社の裏の裏までわかるはずだとは考えてはならない」
ヒカリには、次第にコンサルタントという仕事が、どこか事件を解決する探偵のようでもあり、病気の診断をする総合診断医のようにも思えてきた。