アドラー研究者・岸見一郎の心理分析

岸見一郎(きしみ・いちろう) 哲学者。1956年京都生まれ。専門の哲学と並行してアドラー心理学を研究。古賀史健氏との共著『嫌われる勇気』では原案を担当。

解決策を本当はわかっているはず
西野さんは「嫌われたくはないけど、解決策がわからない」とおっしゃっていますね。でも、本当はすでにわかっているのではないかな、という気がします。自分が楽しいと思うことをやりたい、他人に好かれるように努力するのはイヤだと言っている。じつはそれが解決策なんですよ。他人が自分をどう思うかは他人の課題だから、そんなことに時間をかけても意味がないし、好かれるための努力をしても仕方がない。そのあたりのことをすでにわかっているんですね。また、芸人さんがガス抜きをしてくれたという話をされていますが、その点で西野さんは他者に貢献しているという実感を持っているのでしょう。だからこそ、彼は嫌われることから自由になっているんです。

【連載を振り返って】
『嫌われる勇気』著者・岸見一郎が語る
「芸人は人々に勇気を与えている」

 普通、人には「承認欲求」というものがあります。承認欲求とは、他人に認めてほしいという気持ちのこと。その中には、広い意味で「嫌われたくない」ということも含まれています。この連載で取り上げられた4人の方々(村本大輔品川祐井上裕介西野亮廣)は、いずれも承認欲求にとらわれず、ご自分のやりたいことをやっています。本当に大事なことに目を向けて生きている方々だという印象を受けました。

 一般的に考えると、芸人として人を笑わせようと思ったら、見る人に合わせないといけないような感じがしますよね。でも、おそらくそうじゃないんですよ。みんなから気に入られることが本当の意味の笑いではない。多少反感を覚える人がいても、自分がこうだと思うことをキチッと主張できる人が笑いを取れる。それが本物の笑いになるんです。ここに出ているような一流の芸人の皆さんは、きっとそのあたりのことがよくわかっていらっしゃるのでしょうね。

 彼らは、たとえ芸人をやっていなくても別の分野で頭角を現わせるのではないかと思います。たまたまこの分野で秀でていますが、このぐらいの割り切りがあれば、ほかのことに取り組んだとしてもきっとうまくいくはずです。

 一方、これだけ立派にお仕事をされている割には、自分たちが他者に貢献しているという感覚はやや薄いような気がします。自分たちの芸を誰かに認めてもらおうという気持ちからも自由になったほうがいい。誰がどう評価しようと自分はこれでいいんだという思いがあれば、他者からの承認は不要になり、より自由に生きられるようになるでしょう。

 この4人の方々は、嫌われることを恐れていないし、人から嫌われることや好かれることにとらわれていない。その生き方が見ている人に伝わって、「あんなふうに生きていけるんだ」と勇気を与えています。そのことが他者への貢献になっているのです。

(編集&文・ラリー遠田 文・落合由希 写真・石井 健、木村哲夫)

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【編集部からのお知らせ】

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岸見一郎/古賀史健著
嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え

【内容紹介】

岸見一郎/古賀史健 著、定価(本体1500円+税)、46判並製、296ページ、ISBN:978-4-478-02581-9

 世界的にはフロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨匠とされながら、日本国内では無名に近い存在のアルフレッド・アドラー。

「トラウマ」の存在を否定したうえで、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、対人関係を改善していくための具体的な方策を提示していくアドラー心理学は、現代の日本にこそ必要な思想だと思われます。

 本書では平易かつドラマチックにアドラーの教えを伝えるため、哲学者と青年の対話篇形式によってその思想を解き明かしていきます。

【本書の主な目次】
第1夜 トラウマを否定せよ
第2夜 すべての悩みは対人関係
第3夜 他者の課題を切り捨てる
第4夜 世界の中心はどこにあるか

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