マッキンゼーで働く人は
みんな自信がない!?

長谷川 どう相性が良かったんですか。

ハリス マッキンゼーの社風と私はすごく相性がよかったと思う。彼らが求める人物像は、結果・成績重視で、外部の評価を求める人で、分析上手で、ちょっと自分に自信がないから長時間労働する人。私はそういう要素全てを含んでいたから。

 マッキンゼーで働く人はみんな”Insecure Overachiever”なんです。Insecureっていうのは自分に自信がないという意味。Overachieverというのは大きな結果を出す人。このふたつの要素を持っている人を探しているんですね。結果を出していても自信満々の人は結局傲慢でチームプレーができないし、自信がないだけの人は動けない。マッキンゼーはこのバランスを重視しているんです。

長谷川 絵美さんも自分に自信がなかったんですか。

ハリス そうです、だから外部の評価が欲しくなる。コンサルはクライアントに対してアドバイスをする仕事です。相手が評価してくれるかどうかが成功の基準なので、相手の評価を考えず「私は最高のアドバイスをするけど、あなたが気に入らないならしょうがないね」というスタンスの人は向いていないんですね。

3週間寝たきりになって
成功の定義が変わった

長谷川 マッキンゼーに入ってからも、何かしら長期的な目的があったんですか。

ハリス そうですね。プロジェクト単位では目的がとても明確でした。いかに相手の問題を解決するか、いかに利益を上げるかということでしたから。だけど仕事全体の目的となると別で、仕事に意味を見出すことはできませんでした。このプロジェクトで上げた利益が、他の利益につながるわけではないし。

 そんななか、働きすぎで2年目に体を壊したんですよ。腰を悪くして歩けなくなって。24歳でですよ。3週間寝たきりになって。そこで今まで成功ばかりを求めていた自分のスタンスについてじっくり考えることになりました。自分で描いたイメージ通りこんなに成功しているのに、はたして今の自分は幸せなのかと。

長谷川 今まで成功することにあれだけこだわってきたのに、それを見直すことになったんですね。

ハリス はい。ある側面を見れば成功していますが、全体像を見るとまた違います。ワークライフバランスに関しては成功とは言えないし、自分の能力をどれだけ社会に貢献させているのかということを考えてもクエスチョンがついて。今まで自分は無理して「外部からの評価」という偏った成功を求めてきたんじゃないかと思うようになりました。つまり、これまで自分が追い求めていた「成功」は、自分には合わなかったのではないかと。

 もちろん成功してハッピーになれる人はそれでいいと思うんですよ。マッキンゼーでも素晴しいキャリアを積んでいる人はいっぱいいますし。でもみんな成功するとは限らないし、成功したところで幸せになれる保証もない。人から「あなた幸せだね」と言われるのではなく、自分で自分のことを本当に幸せだと思うことが大事ではないかと初めて思うようになりましたね。今まで成功すること、成果を上げることに強くこだわってきたのに、成功してもしなくてもいいや、別に成功しなくても死にはしないし、むしろ成功しないからおもしろいと考えるようになりました。

長谷川 成功しなくてもいいというよりは、人生での成功の定義が変わったということですね。そのあと、マッキンゼーをやめたんですか?

ハリス ちょうど冬休みで、日本の実家に戻っていたんです。両親もすごい心配して。でもマッキンゼーをやめると言うと「それでいいのか」と言い出して。歩けなくなってもですよ。「マッキンゼーであと1年ぐらいやったらどうなの、もうちょっとお金貯めてからにしなよ」と言われたんですが、もう無理ですよ。ある程度貯金はしてたので、振り切ってやめました。その後、しばらくして友達に誘われ、2008年にオバマ大統領の選挙キャンペーンにボランティアで参加することになりました。それをきっかけに政治や社会活動に強く関心を持つようになりましたね。