長谷川 社会や政治に強く関心を持つようになった理由は、他にもありますか。たとえば昔から好きだったとか。
ハリス 高校まで日本のインターナショナルスクールに通っていたのですが、社会科目が好きで、自分の頭で社会について考えさせられるようなテーマを勉強していたのも、政治に関心を持つようになった理由のひとつかもしれないですね。高校のころは歴史が一番好きだったんですよ。私が受けたクラスでは、日本の戦後の歴史がどう解釈されているのか、どれだけ多様な視点があるのかというのを自分の頭で考えさせる授業をしていました。歴史の内容って史実をどう解釈するかで左右される部分が大きいですよね。今の歴史の教科書は今の時代の考えを反映するものでもあるのだとすごく考えさせられました。他にも沖縄の平和資料館に行って戦争とは何なのか考えるとか、自分で宗教を創るとしたらどのような宗教がいいかとか、そういう自分の頭で社会について考えさせられた機会があったから、社会に関わろうと思ったのかもしれないです。
長谷川 ご家庭でも、社会について考える機会はあったんですか。
ハリス まったくありませんでした。両親が関心を持っていないので、ニュースを見る習慣もまったくありません。誤解を恐れず言えば、自分たちがよければ社会なんてどうでもいいと考えていたところがありましたから。
日本に戻って
日本に貢献したい
長谷川 選挙が終わった後は何をされていたんですか。
ハリス 選挙が終わった後は、ニューヨークで1年間職を転々としたあと、Purposeという社会起業家を支援する会社で3年間働きました。あるときchange.orgというサイトがあると知ったんです。ネットの政治活動に関心を持ち始めていたので気になっていたら、どうもchange.orgが日本に進出したがっていると聞いて。「それ私やりたいな」って思って応募したら採用されたので、日本に帰国してchange.orgの日本版を立ち上げることになったんです。
長谷川 大学からずっとアメリカにいたんですよね。日本に戻るというのは大きな決断のように思えますが、何か理由があったんですか。
ハリス そもそも日本に戻りたいという気持ちもありました。それまで10年間アメリカにいて、だんだんアメリカ人化していく自分がイヤだったんです。私は日本人とアメリカ人のハーフとしてのアイデンティティを強く持っているので、そろそろ日本に戻って、日本に貢献したいと思うようになりました。そう思っていたところにchange.orgの要望が重なったんですね。
あとは「このキャンペーンが日本に持ち込まれたら、社会に何をもたらすのか」ということに興味がありました。成功を追い求めていた頃と違い、その頃の私は「その仕事を通じて社会にどう貢献できるのか」を意識していたので「その仕事は成功しそうなのか否か」という観点で仕事を見ていませんでしたね。
英会話のできない英語教師は
今すぐやめさせるべき
長谷川 では最後に、日本の教育がこれからどうあればいいのか、客観的に見てこういうところを変えるべきだというような提言がありましたら、ぜひお聞かせください。
ハリス そうですね。日本の教育には素晴しい部分がたくさんあると思うんですよ。他の国に比べても教育水準が高くて。もうアメリカの公立の子なんてやばいですよ、高校を卒業しても本が読めない、数学もろくにできないっていう生徒たちが毎年何百万人も卒業しているので、それと比べて日本はすごいと思います。
そのいい部分を保ちつつ、今までの教育の枠組みにはまらない子たちでも個人の力を発揮できるように、生徒ひとりひとりに合わせた教育をもっと模索できたらいいですよね。多様性をもっと認めてほしいという思いはあります。
長谷川 そうですね。教育の枠組みにはまらない一部の子どもが発達障害と見なされてしまうのは、画一的な枠組みに無理矢理はめようとするからだと思います。枠組みにははまらないけれど、才能が豊かで、社会で大きな活躍をする可能性のある子どもだってたくさんいます。親や教師が子どもに対して「学校の画一的な枠組みに適応させる」という目標を設定してしまうからこういう不幸が起こるんだと思います。
ハリス ああ、わかります。無理に枠組みにはめようとするのは、周りが管理しやすいようにするためですよね。新卒社員に「社会の枠組み」をはめて、管理しやすくして長時間労働をさせるのと同じ論理じゃないですか。結局、周りのマネジメントに問題があると思います。「仮に短期的な目標を達成できなくても、失敗から学んで、最終的に成功できればいい」。この視点があるだけで、枠組みにはまれない子どもを見る目は変わってくると思います。
あとは何より英語教育のやり方は本当に変えるべきだと思います。今すぐに英語で会話ができない英語教師を全員外して、たとえばフィリピンにいる英語を話せる人をスカイプで生徒につなげる。それで生徒ひとりひとり個別に英会話を教えるようにしていただきたいです。そのほうがおそらくコストも低く、生徒も話せるようになるし、十分実現可能です。今すぐできることはたくさんあるのに、2020年までに英語教育を改革しますというのは、いくらなんでも遅い。教師の組合ももちろん重要なのでしょうが、少なくとも今の英語教育は不十分と言わざるを得ません。いろんな既得権力と戦う必要がある課題ですが、ぜひとも切り込んでいただきたいですね。
長谷川 いっぱいでてきますね。僕が絵美さんのお話を聞いて思ったのですが、子どもたちが自分の頭で自分の人生を考える機会を学校でもっとつくるべきだと思うんです。今の教育環境は周囲からどう評価されるかということに重きが置かれていて、子どもたち自身が「自分がどうありたいのか」「自分には何が必要で、何がいらないのか」ということを考える機会があまりないんですよ。
ハリス そうですね。そのような、いわば「自分の軸」を持つことは、学校の外でもとても重要。これだけソーシャルメディアが流行って情報が大量に入ってくる現代こそ、いらない情報を切り捨てる力が必要になってくると思います。
長谷川 僕もそう思います。そういう自分の軸について考える機会がないから、子どもは「全教科うまくできなくちゃいけない」「全員と仲よくならなくちゃいけない」と全部完璧にこなそうとする。でもそれは無理な話なんです。大人になってこの混沌とした社会でも生きていけるよう、子どもの頃からしっかりとした自分の軸を見つけてもらいたいですね。
絵美さんは社会にかなり関心を持っている方なので、社会問題を広く意識したお話が多かったですね。ありがとうございました。
(次回は書道家の紫舟さんに取材します。9月19日公開予定です)