笑いの中に潜む真実とは

「グッドモーニング、ベトナム」は、1987年12月に米国で封切られた、ベトナム戦争を題材にした映画です(日本では翌年10月公開)。

 戦争は、それが如何に正当化されようとも、そこには殺戮と破壊と不条理があります。幸福を追求する機会を奪われた幾多の命があります。古来、政治家も歴史家も科学者も文学者も、戦争を題材にして自説を説いてきました。

 例えば、グロティウスは三十年戦争を目の当たりにして「戦争と平和の法」を著しました。ウィンストン・チャーチルは自らの体験をもとに「第二次世界大戦」という大作を著し、ノーベル文学書を得ました。へミングウェも「誰が為に鐘は鳴る」でスペイン内戦を描き、後に映画化されました。大岡昇平も太平洋戦争のフィリピン戦線を兵士の立場から告発する傑作を残しています。最近「野火」が映画化されベネチア映画祭に出品されています。

 しかし「グッドモーニング、ベトナム」は、数多ある戦争映画の中でも、独特の風合いがあります。ご覧になった方はご承知のとおり、この映画の中では、正面きって戦争の酷さを批判する場面はありません。そこにあるのは、従軍DJが放送で連発する底抜けの笑いであり、それに怒る軍上層部です。ベトナム人たちのさりげない日常生活や、前線から戻った兵士たちの脱力感、ささやかな恋愛感情があります。そんな光景が戦争に対する風刺を醸し出し、ジワーッと実感させます。

 主演のロビン・ウィリアムズ扮するAFN(American Forces Network)のDJエイドリアン・クロンナウアー上等兵が連発する冗談や諧謔(かいぎゃく)や皮肉の中に、実は真実がひっそりと存在している、と感じます。それと同時に、権威を盾に公式見解を繰り返す上官の主張に空虚も感じられます。

戦争と豊穣な音楽と

 そして、今週の音盤「グッドモーニング、ベトナム」サウンドトラック盤を聴けば、この映画を観ていない人でも、ロビン・ウィリアムズの肉声が語りかけ、1960年代のあの時代にタイムスリップします。

 サントラ盤冒頭、ロビン・ウィリアムズが突然大声で呼びかけます。『グゥーウードッ・モーニング・ヴェットナァーアーム!』と(因みに、これを模倣した日本のDJもいましたね)。

 サントラ盤は、スタンダップコメディー出身で機関銃のように面白い言葉を連発し、時に有名人の物真似も得意というウィリアムズの真骨頂で幕を開けます。

 そして、疾風怒濤の1960年代を彩った名曲が次から次に流れます。著作権の関係で、ストーンズやビートルズ等のスーパースターたちの曲は収録されていませんが、ビーチボーイズは2曲も含まれています。ジェームス・ブラウンもあります。ゼムなんていう通好みのバンドも収録されています。60年代に青春期を過ごした人々は既に70歳にならんとしているでしょう。が、その頃生まれていない人々だって、このサントラ盤に収録された60年代の佳曲を聴けば、あの時代の空気感を掴めるでしょう。