ワーク・ライフ・バランスの必要性が、長年、主張されているにもかかわらず、一向に実現しないのは、それが「男性の長時間労働と女性の就業率の低さ」という形で、「家族単位」ではすでに実現しているためだ。これを個人単位に改革するためには、女性ではなく男性の働き方を抜本的に変える必要がある。

 しばしば育児休業期間の長さやその取得率が、企業の子育て支援への熱意の指標として用いられる。しかし、子どもの病気等、子育ての真の負担は、育児休業後に職場に復帰した後に始まる。最近時点でも、育児休業取得比率は76%と高いが、肝心の第一子出生時の就業率は38%に過ぎない(内閣府)。この継続就業率を引き上げる政策だけでなく、特定の企業の内部昇進に拘らない管理職への道を開くという、多様な選択肢が重要である。 

女性の活用に不可欠な労働市場の流動性

 長期雇用保障を重視し、仕事能力に応じた正社員の入れ替えの可能性が小さいことが、日本の大企業の大きな特徴である。とくに低成長期には、どのような業務にも原則対応できるメンバーシップ型正社員の採用は新卒採用時に限定されており、ジョブ型の業務を行う派遣・パートタイム社員との雇用や賃金面の格差が大きいことが、労働市場の効率性と公平性を損なう要因となっている。

 育児休業や子育て期の短時間正社員の拡充は、あくまでも現行の固定的な雇用慣行を前提として、共働き世帯の女性が、配偶者が専業主婦の男性と同じ働き方をすることへの支援策といえる。これは、女性が子育ての生産性が高い幼少期には家庭にとどまり、子どもがある程度の年齢になってからフルタイムで働くという選択肢は極めて困難であり、再就職の場合には、未熟練が前提のパートタイムの職に就かざるを得ない現状を暗黙の前提としている。

 こうした閉鎖的な雇用慣行の下で、男性が女性よりも特定企業への定着率がはるかに高いことが、男女間の管理職比率の差の主因となる。仮に、男性も女性も頻繁に転職することが一般的な働き方であれば、男女間での管理職の差は小さくなる。これは平均的な離職率の高い外資系企業では、相対的に女性管理職の比率が高いことにも反映されている。

 過去の高い経済成長期の産物である、特定企業内での雇用保障慣行が、少子・高齢化社会の下での低成長期にも、そのまま維持されている。労働市場を通じた雇用の安定が政策目標とされていないことが、賃金や解雇補償の水準が大きく異なる大企業と中小企業、正社員と非正社員等の「労働者間の利害対立」を生むひとつの要因である。女性の管理職比率の極端な低さは、こうした日本の労働市場の疾患を示す指標として捉える必要がある。