高齢者の4人に1人は認知症

 これまでこの連載では、医療と介護の制度改革を論じてきた。その医療と介護のサービスの主な対象が高齢者となったのは日本だけではない。OECD各国も同様で、これらの国に共通するのは最大の課題が認知症ケアということだ。

 アルツハイマー病を始め多くの病から発症する認知症には、根治薬がなくケアのあり方が焦点になっている。そのケア手法で、「病院モデル」から「生活モデル」への転換を進めてきた欧米諸国。だが一方、日本の認知症ケアは最先端を行く「生活モデル」と最も遅れた「病院モデル」を共に抱えており、先進諸国の中では特異な状況だ。

 病気の治療を最優先し部屋の環境や食事、入浴などが二の次になるのが「病院モデル」。だが、認知症は症状を遅らせることはあっても完全な治療はできない。そこで、日々の日常生活を充実させようというのが「生活モデル」。QOL(生活の質)を重視する考えは、障害や疾病を複数抱えがちな高齢者への一般的な処遇法としても広がりつつある。

 認知症が国民的な関心事となったのは、昨年6月に厚労省が発表した衝撃的な人数だ。2012年時点で462万人に上り、前年に発表した305万人より実際は160万人近くも多いことが判明した。茨城県つくば市や愛知県大府市など10市町で、4年間に計9000人の高齢者を追跡調査した結果による。認知症有病率が15%となり、全国の高齢者3080万人に照らし合わせると462万人となる。

 一方、正常でもなく認知症でもない、予備軍的な中間状態の軽度認知障害(MCI)の高齢者が約400万人いることも推計された。合わせると862万人となり、「認知症800万人時代」「高齢者の4人に1人は認知症」とその後のマスコミが使い出し、一躍、認知症の議論が盛んになった。

 今回の改革では、認知症への踏み込んだ新サービスはない。改革の土台となり、道筋を示したのは昨年8月に提言された社会保障制度改革国民会議の報告書である。その報告書では、残念ながら認知症についての記述はほんの少しで、国際的な危機感とはかなり乖離している。

 報告書では、「今後、認知症高齢者の数が増大するとともに、高齢の単身世帯や夫婦のみ世帯が増加していくことを踏まえれば、地域で暮らしていくために必要な様々な生活支援サービスや住まいが、家族介護者を支援しつつ、本人の意向と生活実感に合わせて切れ目なく継続的に提供されることも必要であり、地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク、すなわち地域包括ケアシステムづくりを推進していくことも求められている」とある。読みにくい長文の結語として、「医療・介護・予防・生活支援・住まい」の連携、即ち地域包括ケアの確立こそが重要な対策になるとする。