お互いの要望を取り入れた解決策とは?
前のページで、一戸建てを換価分割、代償分割、共有分割した場合を検討しましたが、次は利用できる分割方法を具体的に絞り込んでいきましょう。
まずこの3つの中で、後々の相続が複雑になる共有分割はあまりおすすめしません。
兄弟に限らず、例えば子どもがいない夫婦で働き盛りの夫が亡くなった場合も同じです。妻は夫名義の家を義理の両親と遺産分割するため、将来的には見も知らぬ人と財産を共有する可能性もあり、できるだけ避けた方が懸命だと思います。
そうすると考えられるのは、やはり金銭的な解決、つまり代償分割です。
相続人に財力があれば簡単に解決するのですが、家の持ち分を金額にすると、大抵は何百万、何千万円という単位になるので、ポンと支払えるような額ではありません。一括払いできない場合は、長年にわたり分割で支払っていくことになります。しかし実際にお金がなければどうにもなりません。
これまでの検討をもとに、親の一戸建てを兄弟2人で相続し、兄は家がほしい、弟はお金がほしいと争うケースで最良と思われる解決策を考えてみましょう。
家を巡っての争いですから、理想的には誰が家を相続するのかをハッキリさせておくことです。
そのためには親が遺言書を作り、同居している長男に家を譲ることをしっかり書き残しておく。これで家は長男が相続できます。
そうすると、弟のほうは遺留分を請求できます。
遺留分とは、遺言に関係なく、法律上、最低限相続できる権利のことをいいます。遺留分は、原則として法定相続分の2分の1。兄と弟の法定相続分は等分すると2分の1ずつですから、その半分である4分の1を兄は弟に支払う義務があります。
結果として、兄は法定相続分より少ない遺留分を何とか支払うことで家を相続でき、弟は金額が少なくなってもゼロ円にはならずお金を受け取れます。
ニートの相続は「共有分割」が安心!?
先程、共有分割はあまりおすすめしないと述べましたが、家族環境に応じてあえて共有分割で相続したほうが上手くいくケースもあります。
例えば、兄弟のうちの1人がニートで親と同居。親が亡くなり、他の兄弟はその1人を気遣って共有分割にしておきます。住む家があればホームレスになる心配はなく、共有にしておくことで、譲り受けた家を勝手に売却されるのを防ぐことにもなります。
逆に親の方がニートの子どものことを考えて、兄弟たちが共有分割で家を相続するよう遺言に残すこともできます。
遺言書を書いている人はまだまだ少ないのが現状ですが、今回取り上げた一戸建ての相続トラブルも遺言書が存在すると金銭的な解決がしやすくなり、遺産分割もスムーズに行うことができます。
最近はエンディング・ノートが注目され、書店などに並ぶようになりました。財産目録などを細かく書き出していくので作るのが結構大変なのにもかかわらず、エンディング・ノート自体には法的な効力がありません。
すでにエンディング・ノート書いた人も、これから書こうと思っている人も、やはり「遺言書」を作成してはいかかでしょうか。
(取材・文/佐藤祥子)
(監修:税理士法人チェスター http://chester-tax.com/)
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