しかしながらワクチンで予防できる疾患でありながら、患者報告が絶えない感染症は多々あり、乳幼児や高齢者においては、ワクチン接種は重要な公衆衛生施策である。さらに施策の充実を図るべく、今年10月から、乳幼児への水痘ワクチン、高齢者への肺炎球菌ワクチンが新たに定期接種に追加された。

 国内では撲滅されたと見なされるポリオについても、世界的にはウイルス常在国があり、海外では継続的にアウトブレイクも発生していることから、いつ日本にウィルスが渡航者を介して持ち込まれるか、予断を許さない。そうした考え方の下で、リスクマネジメントとして乳幼児への予防接種が続けられている。詳細は、参考2を参照されたい。

<参考2>

感染症対策は戦争の歴史
日本も軍主導で発展した

 他方で、感染症との戦いが人類の開発と戦争の歴史と密接に関わることを反映して、歴史的・世界的に感染症対策と軍事との繋がりは不可分である。単純に国や民族をまたぐ戦争によって新たな感染症に遭遇してきたという面だけでなく、軍隊は常に集団生活を強いられることから感染症蔓延の危険性と隣合わせであるという側面、更には、アステカを征服したコルテスのように、病原体を攻撃手段として使う、現在でいう生物兵器としての側面もある。

 そうした多様な側面への対応が、特に熱帯地域を中心に世界各地に植民地を有する英国やフランスでの、軍事医学の一環としての疫学および予防医学発展の基礎となった。

 我が国でも、例えば結核予防のためのBCGワクチンが戦時中に陸軍軍医学校の主導で開発され、先んじて陸軍で接種開始されたように、感染症研究・対策は、一般国民の公衆衛生を担う内務省(現在の厚生労働省)とともに、将兵の感染予防の観点で軍も注力していた。新宿区戸山にあった陸軍軍医学校の跡地は現在、国立感染症研究所の一部となり、そこでは感染症の予防や治療のための研究や検査、製剤の検定が行われている。

 戦後の医療制度・予防接種制度を作ったのも事実上は米軍、即ちGHQの公衆衛生福祉局(PHW)とされている。予防接種制度(旧予防接種法は1948年に成立)はGHQ主導の下で一般国民を対象に施行されるようになった。12の感染症が予防すべき疾病として列挙され、そのうち、当時の感染症流行状況を踏まえ、天然痘、ジフテリア、腸チフス、パラチフス、発疹チフス、コレラ、の6疾病について具体的な接種規定が制定された。現在の予防接種法では接種義務はなく、積極的な接種勧奨にとどまっているが、当時の制度はGHQの防疫を重視する占領政策を反映して、国民に対象ワクチンの接種を義務付けるものであった。

 多くの国で軍隊が予防接種を積極的に実施するのは、防疫が国の安全保障の一部であるとの発想があることに加え、国防という任務を鑑みて、軍隊には一般国民よりも一段高いリスク管理が求められるとの発想があるからである。現在も軍隊においては、一般国民には接種が求められないワクチンを全員に接種している国が多い。

 我が国では戦後、自衛隊が創設され、自衛隊員への予防接種制度は旧防衛庁(現防衛省)によって定められてきた。現在の規定は「防衛庁職員の健康管理に関する訓令」(昭和29年12月15日発令)が下敷きとなり、対象の感染症など細則は「予防接種等の実施について(通達)」(平成7年4月1日)という事務次官通達によって定められている。