江沢民の政策はどこからどう見ても資本主義

 その後も鄧小平は、中国の最高指導者として君臨するが、1989年の天安門事件を境に、影響力を残しつつも表舞台から身を引いて院政に入る。そして完全に身を引く少し前に、有名な「南巡講話」を発表する。

「計画経済にも市場はあり、資本主義にも計画はある。つまり、社会主義は必ず計画経済と決まっているわけじゃないんだから、手段はどうあれ、最終的に搾取や両極分化をなくして、みんな平等に豊かになろう」

 この人、辞めてもバリバリ「改革・開放」路線を続けさせる気だな……。そういう意欲と、影響力を残す意志が強烈に伝わってくるメッセージだ。そして鄧小平は、自らの後継者を指名した。江沢民だ。

 江沢民は1993年、国家主席に就任するとすぐに「南巡講話」に賛同し、党大会で採択した。そうして始まったのが「社会主義市場経済」だ。社会主義市場経済は、一応社会主義国の経済体制だから「公有財産」が基本だ。でもそれと同時に、「外資」「株式会社」「私有財産制」も発展させる。これらはいずれも、政府所有の公有財産ではない。

 しかも、その外資のあり方に関しては追加が多く、「奨励・許可・制限・禁止」に4分類してそれぞれに条件を付けたり、他にも税制面での負担軽減や中国全土での受け入れなど、今まで以上の条件緩和やきめ細かいルール設定を行った。

 これらの内容は1995年以降に追加されたものばかりで、明らかに同年発足したWTO(世界貿易機関)への加盟を意識したものだ。中国がWTO加盟って、すごいことだ。だってWTOは「世界の“自由”貿易の守り神」なんだよ。そこに“平等”をめざす社会主義国が参加するなんて、少し前では考えられなかったことだ。

 でも、時代は1990年代。もう冷戦は終わり、文革は終わった。なら社会主義国だって、最終的に「みんな平等に豊かになる」ために、途中過程でちょっと利潤を貪るくらいいいじゃない。ちっちゃいことは気にすんな……って、なんて柔軟で便利なんだ、「南巡講和」。

 その他、社会主義市場経済では、国有企業の株式会社化(つまり事実上の民営化)や個人企業の奨励、一部の人が先に豊かになることの奨励、政府の市場介入は最小限と、どっからどう見ても資本主義にしか見えない政策が連なる。