眠れる獅子が抱える恐ろしいチャイナ・リスク

 かつて泣く子も黙る若頭だった日本には、現組長候補である大男の金歯は眩しく、そして妬ましく感じられてしまう。しかし、その妬みとは関係なく、中国には中国ならではのリスクがいろいろ存在する。こういうのを「チャイナ・リスク」という。

 いろいろありそうだな。例えば公害問題。今の中国の大気汚染は毒ガスレベルだから、どこかで強烈な規制がかかる可能性がある。そうすると企業活動、車の規制など、生産・物流の大きな障害になり、中国経済が停滞に向かう可能性がある。

 それから少子高齢化。中国は鄧小平体制に入ってすぐの1979年から「一人っ子政策」を始めた。そのおかげで35歳より下の世代では人口抑制が進んでいるが、それより上は「人口爆発世代」だ。

 これも毛沢東の「人が一人増えれば、メシを食う口は一つ増えるが、働く腕は二本増える」という寝言のせいだ。この人は“はっきり寝言を言う”タイプの独裁者だから、寝ぼけた発言でもクリアに拾われ、国中が振り回されてしまう。うまく乗り切らないと、日本とは比較にならない規模の少子高齢社会になるぞ。若者は膨大な文革世代を支え切れるのだろうか!?

 さらには、資源や領土がらみでの近隣国とのトラブル。日本とは2010年に尖閣諸島がらみで大モメしたのは記憶に新しい。日本は昔から中国と領土トラブルがあった国だから、尖閣問題も相当大きなチャイナ・リスクだね。

 南シナ海でも東南アジアの国々と衝突を繰り返している。南沙諸島や西沙諸島あたりは漁業・海底資源とも豊富で、しかも海上交通の要衝だ。そこで覇権を握りたいのはわかるが、そこはフィリピン・ベトナム・台湾・マレーシア・インドネシア・ブルネイ・中国の7ヵ国が向かい合うエリアだ。中国だけが領有権を主張できる場所じゃない。

 他にも、バブル崩壊の懸念、靖国問題、労働者の質や賃金コスト、不透明な政治、著作権侵害問題など、数え上げればきりがない。でもおそらく、どれだけチャイナ・リスクが懸念されようとも、今後も中国とのつき合いは増える一方だろう。実際、日本企業の多くは、尖閣問題で関係が最悪になった後も、中国から撤退どころか逆に事業拡大した。やっぱり身近な13億人の市場は無視できない。

 今や中国は、かつてのユニクロ方式のような、安価なモノをつくってもらう“生産の国”から、富裕層が爆買いしてくれる“大きな販売先”へと変貌した。2013年、中国の国家主席は胡錦濤から習近平に移ったが、習近平は現状“八方美人型”で、官僚腐敗一掃などを行ってはいるものの、何をめざしているのかよくわからない。

 対してその習とタッグを組む李克強首相は学者肌で、中国経済を「公共投資依存型から産業構造の高度化」の方向へ進ませようとしているようだ。

 確かに公共投資依存型は、市場にカネばっかり増えて産業が全然進展しないから、バブルの元だ。だから李首相は、どうやらこの産業構造の高度化で産業的な地力をつけて、それを足がかりにバブルからの「足抜け」、つまり“軟着陸(ソフトランディング)”をめざしているようだ。

 ふつう軟着陸なんて欲望がジャマしてできないんだけど、確かに中国は先進国と違って、産業構造が未発達なところが多い。ならば公共事業への「投資」をそちらへの「投資」にすり替えていけば、世の中は金がジャブジャブのまま実体経済に地力がつき、「バブルで稼ぐ」から「バブル以外で稼ぐ」へと移行できるかもしれない。これがうまくいけば、軟着陸に成功したと言えるかもね。

(※この原稿は書籍『やりなおす経済史』から一部を抜粋・修正して掲載しています)