――一方の『ハゲタカ』シリーズの第5弾も気になるところですが。

真山 そちらも来年春頃から、「週刊ダイヤモンド」で連載を開始したいと思っています。今度のターゲットは、ちょっと痺れる相手です…。

有事のときこそ
小説の力が問われる

――2000年代にデビューした作家に科された宿命があると思うんですね。ひとつは、90年代までと違って、日本が衰退期に入っていることを直視しなければならない、ということ。もうひとつは、東日本大震災・福島原発事故を、どうしても避けて通れないことですね。この2つは、作家にはかなりしんどいことだろうなと思います。改めて、震災と原発事故が、真山さんにとって何だったかをうかがいたいと思います。

真山 私は1995年の阪神大震災の時に神戸で被災しています。だから、震災のことをずっと小説にしたかった。どう書こうかと迷っている最中に、東日本大震災が起きて、しまったと思うのと同時に、今度こそ、前のめりで被災地の小説を書かなければならないと思った。だから、小説家としては、むしろ背中を押された感じがあります。

 東日本大震災が起こった時は、正直、呆然としました。とにかく原発を早く止めるべきだと思っていました。止める方法がわかっているのに、止まらなかった。これは大変なことが起きるだろうなと思いました。

――今年9月に公開された、政府事故調査・検証委員会の吉田昌郎所長(個人)や菅直人元首相らへの聴取書(調書)などからも、改めて当時の混乱ぶりがうかがえました。

 阪神の震災もそうですけど、最初の本震では、人はあんまり死んでないんですよ。その後の二次災害や、火事で死んでいる。東日本もそうで、犠牲者の大半は津波で亡くなっていますよね。

 やっぱり人間が、大自然に対して驕っているから、こういう事態が起きたんだろうなって思いましたね、震災直後に、石原慎太郎都知事(当時)が「日本人のアイデンティティーは我欲」「やっぱり天罰」と発言して物議を醸しましたが、まさに先進国、あるいは人類全体が我欲で突っ走ってきたから、自然が警鐘を鳴らしたのかなと思いましたね。95年にも鳴らされた警鐘が生きていない。人間は無力だなと本当に思います。

 ただ、小説家としては、これで書けなくなるとは1秒も思いませんでした。今こそ小説の力が必要だ、と思いましたね。